三島由紀夫『新恋愛講座』

三島由紀夫は『金閣寺』しか読んだことなかったが、たまたま目の前に本書があったので読むことにした。 エッセイ集だ。『新恋愛講座』(昭和30-31年)、『おわりの美学』(昭和41年)、『若きサムライのための精神講話』(昭和43-44年)の3つの連載が収録されている。連載していた媒体が、明星、女性自身、Pocketパンチ Oh! ということもあって、どれもとても軽い。軽すぎてなかなか手に取る気になれず、読むのに時間がかかってしまった。 ...

ジョン・グリシャム(村上春樹訳)『「グレート・ギャツビー」を追え』

厳重警備の大学図書館地下室からフィッツジェラルドの手書き原稿を、5人組の窃盗団が盗み出す場面から始まる。窃盗は計画通りに成功するが、ささいなアクシデントで身元が割れ、窃盗団のうち即座に捕まってしまう。派手な登場だったが、彼らは物語の主役ではなく、手書き原稿ともどもあっという間に退場してしまう。 ...

トマス・ピンチョン(志村正雄訳)『競売ナンバー49の叫び』

今更という気もするがはじめてのピンチョン。長編の中では一番短くて中編といわれることもある本書を手に取った。 物語は案外シンプルだ。1965年のカリフォルニア。28歳の女性エディパは元恋人の大富豪インヴェラリティの遺言執行人に指名され、サン・ナルシソという町に赴く。そこで彼女は、郵便事業をめぐる歴史的な陰謀に巻き込まれる。いや、というよりも、その陰謀論的な事象が発現する出来事の目撃者になり続ける。女子トイレに描かれた消音ラッパのシンボル、『急使の悲劇』という劇の書き換えられたラストのセリフ、あからさまな偽造切手。競売ナンバー49というのは競売の時にその切手につけられた番号で、謎の鍵を握ると思われる競り手を待つ場面で物語は解き明かされないまま終わる。 ...

コルソン・ホワイトヘッド(谷崎由依訳)『地下鉄道』

今から200年近く前、19世紀前半のアメリカを舞台に、奴隷の少女コーラの逃避行を描いた作品。数年前オバマ前大統領が絶賛していたが、文庫化で値段がさがったのを機にようやく読むことにした。 ...

吉田徹『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』

唐突に思いついたが、新書の価値を測る指標として参考文献の数というのが有効な気がする。本書について数えてみたところなんと155。実際、その数に下支えされてか、とても説得力のある本だった。 ...

北杜夫『白きたおやかな峰』

国家をはじめとする集団が幻想であるというのは散々語り尽くされているが、他方個人というのも文化的な構築物に過ぎず、西洋と東洋で云々というのもその対句のように語られることである。しかし、その構築物のはずの個人が否応なしに自動的に立ち上がる場所がある。そのひとつが山岳だ。山岳小説を読みたいと思ったのも、そういう否応なしに立ち上がる個人の姿を見たいと思ったからだ。 ...

獅子文六『てんやわんや』

遠い異国を舞台にした翻訳小説を読むことが多いけど、戦後すぐの日本の地方を舞台にした話ももはや遠さでは負けてないのではないかと思い読むことにした。 ...

フォークナー(黒原敏行訳)『八月の光』

いつか読もうと思っていたフォークナーの長編にようやくチャレンジ。やはり、最初ははいちばんとっつきやすいという評判の『八月の光』だ。読書でもなんでもきっかけが大事なので、『八月の光』を読むなら八月と思って読み始めたのだが、結局読み終えたのは九月の終わりで、すっかり季節がかわってしまった。 ...

若竹七海『依頼人は死んだ』

先日、といってもずいぶんだってしまったが、NHKでドラマ化された葉村晶シリーズの原作を読んでみることにした。本書はそのなかで最初に刊行された作品集。9編からなる連作短編という形をとっている。 ...

全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』

量子力学が専門の物理学者である著者によって書かれた、センス・オブ・ワンダーと詩情のバランスのとれた科学エッセイ集。22のエッセイが、天空編、量子編、数理社会編、倫理編、生命編という5つのカテゴリニーに分類され、収録されている。 ...

村上春樹『一人称単数』

2018年7月から2020年2月までに雑誌に掲載された作品を中心にした、8編からなる短編集(表題作の1編だけ書き下ろし)。 各作品から共通項をくくり出すと、自分の過去の作品(未発表のものを含む)がなんらかの形でベースになっているものが3編(もし『石のまくらに』の短歌を含めていいなら4編)、不可解だったり謎めいた面をもつ女性が登場する作品が5編、主要な登場人物が関西弁を話す作品が2編、そして村上春樹本人と思われる一人称の語り手をつとめる作品が8編、つまりすべてだ。 ...

山本貴光+吉川浩満『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』

ストア派の中心人物のひとりエピクテトスの思想の入門書。彼は紀元1世紀中頃から2世紀中頃、帝政ローマ期にギリシアで活躍した哲学者で、もともと奴隷の出身から身を立てたといわれている。 ...

ケン・リュウ編(大森望、中原尚哉、他訳)『月の光 - 現代中国SFアンソロジー』

『折りたたみ北京』に続いてケン・リュウ編による中国SF短編集。今回は14人の作家による16編の作品が収録されている。 ...

多和田葉子『百年の散歩』

十編からなる短編集。 作者自身を思わせる語り手の日本人女性が、歴史上の著名人の名前のついたベルリンの通りや場所を、散策する。基本的に、描写されるのは現代の日常風景なのだけど、その場所に積み重なった歴史や、名前のもととなった人物に関する幻想が混入する。後の方の作品になるに従って幻想の強度は増大し、子供の幽霊にお菓子をねだられたり、自分が詩人のマヤコフスキーになって恋人とその夫の親友と対峙したりする。 ...

酉島伝法『宿借りの星』

ありきたりじゃない物語が読みたかった。ありきたりじゃないということにかけては、この本の右に出るものはなかなかないだろう。なにせ主人公マガンダラは四つ脚で歩行し、四つの目で前後を一瞥し、大きな尻尾があるという異形としかいいようがない姿をしている。マガンダラの種族はズァンググ蘇倶という支配的な所属だが、御惑惺様(おほしさま)と呼ばれる彼らの住む惑星には、ほかにもたくさんの種族がいる。かつてこの惑星は人類——卑徒(ひと)と貶められて呼ばれている——に支配されていたが、御惑惺様の力により彼らが集められ、卑徒をこの惑星から滅亡させたのだ。その勝利から数世代分の年月が経過し、惑星と社会それぞれにさまざまな衰えと退廃がみられるようになってきた。 ...

村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』

村上春樹が初めて自分の父について書いたエッセイ。中くらいの短編の長さだが、刊行にあたって他の作品と組み合わせるのが難しいということで台湾出身の高妍さんの挿絵をつけて単独で出版されている。 ...

アーサー・C・クラーク(酒井昭伸訳)『都市と星』

一応SFファンのつもりなのにアーサー・C・クラークを読むのは数十年前の『幼年期の終わり』以来超久しぶり。考えてみるとこういう古典的なSFは今まであまり読んでこなかった。 ...

スティーブン・ピンカー(橘明美、坂田雪子訳)『21世紀の啓蒙』

コロナで先の見通しがたたないなか前向きな本が読みたくなった。 ...

藤井太洋『ワン・モア・ヌーク』

2020年3月東京。コロナが発生せずかわりに原爆テロが発生した世界線の物語。 オリンピックを間近に控え、東日本大震災そして原発事故から9年目の、2020年3月。テロリストにより東京都心で核爆弾を爆発させるという予告がされる。プロローグとエピローグをのぞいた本篇は爆破時刻に指定された3月11日午前0時までの5日間の出来事が、テロリスト側、それを追うIAEA、CIA、そして日本警察の動きがそれぞれの視点から順繰りに語られる。 ...

木田元『反哲学入門』

『反哲学入門』と題されているが、語りおろしということもあり、とても易しく哲学史の見取り図が学べる本。いろいろ哲学書を読み散らかしてきたがまずこの本を読んでおけばよかった。 ...