今村夏子『むらさきのスカートの女』

どこの町にも〇〇おじさんとか〇〇おばさんなどと呼ばれるローカルな有名人がいるものだが、通例は何かしらの奇矯な行動により衆目を集めている。本書の「むらさきのスカートの女」はいつも同じ色のスカートをはいていることと、雑踏の中でも人にぶつからず一定のペースで歩けることのほかに際立ったも...

イキウメ『人魂を届けに』

森の最奥の家が舞台。そこの主人山鳥は、森で迷ってる人たちを救って自分の家に住まわせており。彼らからママと呼ばれ共同生活を送っていた。そこに八雲という刑務官が奇妙な届け物をもってたずねてくる。届け物はかつてその家に住み街に戻ってからテロを起こし処刑された男からでてきた黒い物体だ。そ...

Steven Pinker “Rationality: What It Is, Why It Seems Scarce, Why It Matters”

タイトルにあやかり “Rationality” を駆使して、邦訳でなく英語の原書を読むことにした。邦訳は上下分冊であわせて4000円近くしてしまうのだがなんと650円だった。そうはいっても、Pinkerの文章は簡単ではないので、途中からは図書館で邦訳を借りて答え合わせするのに時折使う...

KAATプロデュース『掃除機』

岡田俊樹脚本でドイツで上演された作品の日本初演。本人じゃなく本谷有希子演出だ。 3人家族が暮らす家が舞台。妻に先立たれた80代の男性、その娘で学生時代から50代の今まで引きこもりの姉、40代無職の弟。そして話すことができる掃除機が狂言回しとして登場する。現代のある側面を凝縮したよう...

『老舗書店「有隣堂」が作る企業YouTubeの世界』

有隣堂は、横浜出身者にはなじみ深い本屋で、ぼくも幼い頃からずっとお世話になってきた。ところが、最近は紙の本から遠ざかって、お金を落とさなくなっていた。そんななか、たまたまみてみた有隣堂のYouTube『有隣堂しか知らない世界』がおもしろくて一気にはまってしまった。企業YouTub...

鏡明『不確定世界の探偵物語』

見慣れた街並みが突如として変わったり、目の前で話していた男が、見知らぬ人間に変わってしまうことが日常的におきるような世界が舞台。それはエドワード・ブライスという実業家が発明したワンダーマシンという一種のタイムマシンによってもたらされたものだった。ブライスは世界を少しずつよい場所に...

ナイロン100℃『Don't Freak Out』

登場人物全員の顔が白塗り。そのことにDon't Freak Out(ひかないで)というより、白塗りによりあらかじめ無用な感情移入の余地をなくしておいて、これから舞台で起きることにDon't Freak Outという感じだった。 山奥で精神病院を経営する天房家に女中として奉公する姉妹くもとあめが主人公。くも...

吉川浩満『哲学の門前』

同じ著者の『理不尽な進化』も、あえて進化に関する誤解に焦点をあてていて相当ニッチだったが、これまたニッチな本だ。哲学の入門書ならぬ「門前書」ということで、著者の体験談のパート(である調)とそれに関する「哲学的」(?)な考察のパート(ですます調)が交互にくるスタイルをとっている。 特...

竹内繁樹『量子コンピュータ 超並列計算のからくり』

いまさら量子コンピュータのことをまったく知らないと思ったので、最低限の知識をインプットしておくことにした。2005年に書かれた本なので古びてないかなと思ったが、基本的なしくみの話がメインなので、その部分は変化はないのだった。フェーズとしても実用化に向けての研究が少しずつ進んでいる...

『重要物語』

今年初観劇。気づいたときには前売りの予定枚数が終わっていたが当日券をゲットした。 ブルー&スカイ作品を見るのはなんと10年ぶり。世の中はこの10年間に大きく変わってしまったけど、アートとか批評に流れずとことん無意味なナンセンスを追求するスタイルはまったくかわってなかった。こ...