安部公房『カンガルー・ノート』

安部公房が生前完成させた最後の長編小説。 脛にカイワレ大根が生える奇病にかかった男が自走式のベッドと共に病院を追い出され奇妙な冒険を繰り広げる。病院のシーンが多いし、地下の坑道、三途の川など死を想起させる要素はメタファーではなくあからさまに散りばめられている。一貫した物語というより...

ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』

演劇の世界では、待つ対象はゴドーのはずだが、ゴドーはもう歩くAIアシスタントとしてここにいる。戦火から逃れ移民としてこの国にやってきた美容外科医が待っているのは船だ。 一日は無為に過ぎていき船は来ない。そこに上の神社から貧しい現地民エイが流されてくる。彼らは最初反目するがエイの兄が...

安部公房『飛ぶ男』

安部公房の死後フロッピー・ディスクから発見された未完の作品。当初公開されたのは夫人による編集が入った版立ったが、今回はオリジナルの版が収録されている。そのオリジナルさは徹底していて、末尾は文章として成立してない断片や走り書きもそのまま収録されている。 深夜、教師をしている保根のもと...

絲山秋子『神と黒蟹県』

黒蟹県という架空の県を舞台にした連作短編。架空地誌には目がないので読むことにした。 黒蟹県は南に海が面しており、それ以外は概ね山間部をはさんで他県に囲まれている。こぢんまりしたかまぼこ形の形だ。作品中元久はないのだが、その立地や雪の描写がなく温暖な気候であることから、山陽地方の可能...

『ポストカード・ラヴァーズ』 by Kazuo Ishiguro

なんとノーベル賞作家カズオ・イシグロ作詞のジャズナンバー。かわいらしいトーンのなかにぴりっと人生の皮肉がまじっている。カズオ・イシグロらしいリリックだ。 最近わたしはポストカード・ラヴァー(ポストカード愛好家)になった 専門はあなたから届くカード 近頃そんなしょっちゅうはこないけど 届い...

ウィリアム・フォークナー(加島祥造訳)『野生の棕櫚』

読もうとしたきっかけは1月にみた映画《Perfect Days》で主人公平山が読んでいたからだが、廃刊になっていた本書が再版されたのも映画きっかけだったようだ。訳が生硬くて古いのが難点だが現在気軽に入手できる飜訳はほかになさそうだ。 二つのまったく異なる物語が交互に語られる。ふつうは...

『アメリア』 by Joni Mitchell

1937年に世界一周飛行中に行方不明になった女性飛行士の草分けアメリア・イアハートが乗ってた飛行機の残骸と思われるものが海中から発見されたというニュースがとびかっているので、彼女をテーマにしたジョニ・ミッチェルの名曲『アメリア』を訳してみた。 灼けた砂漠で車を走らせてたら 6機のジェ...

テアトロコントspecial『寸劇の館』

今年初の観劇。昨年に続いて今年もブルー&スカイ作品からのスタートだ。『寸劇の館』というタイトルからわかるように実質寸劇4編のコントライブなのだが、それを、理不尽な理由で処刑されてしまいそうな息子の命を救うため森に探索に行った母親が「寸劇の館」という館に迷い込み寸劇を見せら...

小川哲『君のクイズ』

賞金1000万円をかけたクイズ番組の一対一の決勝戦。まだ問題が一言も読まれないうちに対戦相手本庄がホタンを押し、正解してしまう。しかも回答は「ママ、クリーニング小野寺よ」というものだった。敗れた三島は納得できず、なぜ本庄が正解できたのか、その理由を探っていく。 小川哲さんは基本SF...

酉島伝法『るん(笑)』

タイトルからちょっとふざけた作品を想像していたが、かなりシリアスなディストピアものだった。 世界観と登場人物が共通する、中編といっていいくらいの長さの作品が3篇収録されている。舞台はおそらく未来の日本。そこでは合理的な思考や科学知識が蔑まれスピリチュアルなものが生きる上での共通の基...