KAATプロデュース『掃除機』

岡田俊樹脚本でドイツで上演された作品の日本初演。本人じゃなく本谷有希子演出だ。 3人家族が暮らす家が舞台。妻に先立たれた80代の男性、その娘で学生時代から50代の今まで引きこもりの姉、40代無職の弟。そして話すことができる掃除機が狂言回しとして登場する。現代のある側面を凝縮したよう...

『老舗書店「有隣堂」が作る企業YouTubeの世界』

有隣堂は、横浜出身者にはなじみ深い本屋で、ぼくも幼い頃からずっとお世話になってきた。ところが、最近は紙の本から遠ざかって、お金を落とさなくなっていた。そんななか、たまたまみてみた有隣堂のYouTube『有隣堂しか知らない世界』がおもしろくて一気にはまってしまった。企業YouTub...

鏡明『不確定世界の探偵物語』

見慣れた街並みが突如として変わったり、目の前で話していた男が、見知らぬ人間に変わってしまうことが日常的におきるような世界が舞台。それはエドワード・ブライスという実業家が発明したワンダーマシンという一種のタイムマシンによってもたらされたものだった。ブライスは世界を少しずつよい場所に...

ナイロン100℃『Don't Freak Out』

登場人物全員の顔が白塗り。そのことにDon't Freak Out(ひかないで)というより、白塗りによりあらかじめ無用な感情移入の余地をなくしておいて、これから舞台で起きることにDon't Freak Outという感じだった。 山奥で精神病院を経営する天房家に女中として奉公する姉妹くもとあめが主人公。くも...

吉川浩満『哲学の門前』

同じ著者の『理不尽な進化』も、あえて進化に関する誤解に焦点をあてていて相当ニッチだったが、これまたニッチな本だ。哲学の入門書ならぬ「門前書」ということで、著者の体験談のパート(である調)とそれに関する「哲学的」(?)な考察のパート(ですます調)が交互にくるスタイルをとっている。 特...

竹内繁樹『量子コンピュータ 超並列計算のからくり』

いまさら量子コンピュータのことをまったく知らないと思ったので、最低限の知識をインプットしておくことにした。2005年に書かれた本なので古びてないかなと思ったが、基本的なしくみの話がメインなので、その部分は変化はないのだった。フェーズとしても実用化に向けての研究が少しずつ進んでいる...

『重要物語』

今年初観劇。気づいたときには前売りの予定枚数が終わっていたが当日券をゲットした。 ブルー&スカイ作品を見るのはなんと10年ぶり。世の中はこの10年間に大きく変わってしまったけど、アートとか批評に流れずとことん無意味なナンセンスを追求するスタイルはまったくかわってなかった。こ...

P・D・ジェイムズ(小泉喜美子訳)『女には向かない職業』

22歳の女性であるコーデリア・グレイはこの物語の開始時点で小さな探偵事務所の共同経営者だが、冒頭で所長のバーニイが病気を苦に自殺してしまい、彼女がひとりで事務所をきりもりしていくことになる。コーデリアの半生や探偵になるまでの経緯は、回想的に合間合間で語られる。 本書の主題は、コーデ...

斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』

特殊設定ミステリーという言葉をはじめてみた。最近現実に世界にありえない特殊な設定のミステリーが増えてきて。ジャンルを形成しつつあるらしい。 この作品では、天使と呼ばれる、翼があり目鼻口のないのっぺりした顔という異形の生き物が多数降臨し、二人以上殺した人間を地獄に引きずり込んでしまう...

村上春樹『女のいない男たち』

初読以来8年たって再読したのは、映画『ドライブ・マイ・カー』をようやくみたからだ。完膚なきまでに忘れていて潔いくらいだった。 初読時には各作品の内容にはほとんど触れなかったので、今回は映画とからめつつ各編の内容に触れていこう。 映画のタイトルになった『ドライブ・マイ・カー』からは主要...