ナイロン100℃『江戸時代の思い出』

ナイロン30周年記念公演の第2弾とのことで実際31年周年だがそこがナイロンらしい。自分がそのうち25年間みてきたことにびっくりだ。 江戸時代の峠の茶屋みたいなところで二人の男がすれちがい、そのうちのひとり町人の風体の武士之介が武士の風体の人良に自分の思い出話を無理やり聞かせようとす...

高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』

あちこちで聞きかじったあやふやな知識を整理しておこうと読み始めた。 量子場というのは計算の便宜を図るものくらいに考えていたら実は本質的なもので、今まで粒子だいや波だと言っていた素粒子の実体はこの量子場の励起状態と考えたほうがいいらしい。素粒子の種類ごとにこの場が宇宙全体に広がってい...

チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」

2018年に陸前高田で進む震災からの復興工事を目撃した経験に触発されて、「人とモノが主従関係ではなく、限りなくフラットな関係性で存在するような世界を演劇によって構築できるのだろうか?」という問題提起から生まれた作品。舞台に配置されたさまざまなモノは美術家の金氏徹平さんによるもの。...

塚越健司編『私のLife vol.1』

初回からずっときいてるTBSラジオの文化系トークラジオLifeのZINE。2023年11月の文学フリマ東京37に向けたもので、ずっとほしかったのだが、ようやく入手できたのだ。稿者は番組出演者総勢20名。冒頭の長谷川PによるこのZINE発行の経緯を綴ったエッセイからはじまり、ちゃん...

エルヴェ・ル・テリエ(加藤かおり訳)『異常【アノマリー】』

リアル書店で赤っぽい表紙で漢字二文字のシンプルなタイトルということで記憶したのだけど、書名を確認するには再度同じ書店に行く必要があった。 最初に見かけたときに帯の言葉を誤読して特殊設定ミステリーだと思い込んでいた。冒頭も殺し屋が登場してその誤解に拍車がかかる。実は、古今からの文学的...

青年団『S高原から』

5月で閉館するこまばアゴラ劇場のサヨナラ公演と銘うたれた公演のひとつ。これはいかねばなるまい。アゴラでみる49個目の公演だ。 『S高原から』をみるのはなんと25年ぶり。高原のサナトリウムが舞台という以外ほとんどなにも覚えてなかった。25年前はまだ下敷きとなったトーマス・マン『魔の山...

安部公房『カンガルー・ノート』

安部公房が生前完成させた最後の長編小説。 脛にカイワレ大根が生える奇病にかかった男が自走式のベッドと共に病院を追い出され奇妙な冒険を繰り広げる。病院のシーンが多いし、地下の坑道、三途の川など死を想起させる要素はメタファーではなくあからさまに散りばめられている。一貫した物語というより...

ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』

演劇の世界では、待つ対象はゴドーのはずだが、ゴドーはもう歩くAIアシスタントとしてここにいる。戦火から逃れ移民としてこの国にやってきた美容外科医が待っているのは船だ。 一日は無為に過ぎていき船は来ない。そこに上の神社から貧しい現地民エイが流されてくる。彼らは最初反目するがエイの兄が...

安部公房『飛ぶ男』

安部公房の死後フロッピー・ディスクから発見された未完の作品。当初公開されたのは夫人による編集が入った版立ったが、今回はオリジナルの版が収録されている。そのオリジナルさは徹底していて、末尾は文章として成立してない断片や走り書きもそのまま収録されている。 深夜、教師をしている保根のもと...

絲山秋子『神と黒蟹県』

黒蟹県という架空の県を舞台にした連作短編。架空地誌には目がないので読むことにした。 黒蟹県は南に海が面しており、それ以外は概ね山間部をはさんで他県に囲まれている。こぢんまりしたかまぼこ形の形だ。作品中元久はないのだが、その立地や雪の描写がなく温暖な気候であることから、山陽地方の可能...