小川哲『嘘と正典』

長いことぼくにとって小川哲さんは小説家ではなく村上Radioプレスペシャルのラジオパーソナリティーだったのだが、はじめて作品を読んでみた。 小説家を分類するには何に忠実かということをみればいいと思っていて、倫理感や思想性、文体を含めた詩情、SFというジャンルならジャンル特有の世界観...

松浦寿輝『幽 花腐し』

松浦寿輝作品では『半島』が好きで今回あらたに購入して読み返すことにしたのだけど、そのついでに他の作品も読んでみようと選んだのがこの短編集だ。 6編からなる。ジャンルでいうと幻想文学。何らかの理由で世の中との流れから取り残されて孤立した男が主人公なのが共通だ。『無縁』では歌舞伎町との...

伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』

日本の新人SF作家の短編を14篇集めたアンソロジー。選択の基準は「2022年5月現在で、まだSFの単著を刊行していない」こと。 伴名練さんの作品がすばらしかったので、ほかの現代日本SFも読んでみたくて選んだのだが、予想以上のレベルだった。SFのアイディアもさることながら、それを物語...

『世界は笑う』

ナンセンスコメディーかと思ったが、違った。建てつけとしては、まだ戦争の傷跡が残る昭和30年代前半を舞台に喜劇一座の盛衰を描いた、わりとシリアスなコメディーだ。若手役者のあれやこれやは新しい笑いを生み出そうと台本を書き座長に上演許可をもらうが、自らの演技によりクオリティが落ちること...

吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』

今までいくつかスピノザ本を読んできたけど、本書はけっこう異色だ。 ひとつめ。スピノザの思想だけでなく家族、生涯、死後の受容に焦点をあてている。いまだにけっこうわからないことが多いのだが、父の事業を受け継いで営んでいたときの訴訟記録や、スピノザの兄弟のその後の行く末(カリブ海の島に渡...

アンディ・ウィアー(小野田和子訳)『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

目が覚めるとたくさんの管や電極につながれてベッドの上に横たわっている。身体がなぜここにるのか、自分の名前も思い出せない。部屋にはほかに二つベッドがあり人が横たわっているが、どちらも死んでいて、死んでからかなりの年月がたっているようにみえる・・・・・・。このシチュエーションで先が読...

スヌーヌー『モスクワの海』

笠木泉さんの関わった作品はこれまで割とみてきたつもりだけど新しいユニットを立ち上げて作・演出をしていることについ最近気がついた。出演している人たちもなつかしい顔ぶれだ。特に松竹生さんを舞台でみるのは16年ぶりで、いい歳のとり方をされていることに安心しつつも、特にコロナ以降ひどくな...

サラ・ピンスカー(市田泉訳)『いずれすべては海の中に』

アメリカのSF作家サラ・ピンスカーの2019年に刊行された現時点で唯一の短編集の邦訳。電子書籍版で読んだが表紙に惹かれて選んだジャケ買いだった。 収録されているのは13篇。ショートショートみたいに短いものから中編に近い長さのものまでいろいろだ。印象的な作品をピックアップする。 冒頭の...

柞刈湯葉『横浜駅SF 全国版』

すっかり忘れていたので『横浜駅SF』を読み直すところからはじめて、あわせて一気に読み通した。 『横浜駅SF』のサイドストーリー。短いプロローグを別にすると、基本的に本編にでてきたサブキャラがメインで活躍する4篇の短編からなる短編集だ。 『瀬戸内・京都編 A Harsh Mistress』はJR北日...

柞刈湯葉『人間たちの話』

『横浜駅SF』の作者の初短編集。収録作は6編だ。 『冬の時代』は次の氷河期が到来して数世代後の日本を旅する若者と少年のスケッチ。長編小説のなかのひとつのエピソードを抜き出したような作品。 『たのしい超監視社会』はオーウェル『1984年』のパロディー。三大全体主義国家の一角ユーラシアが...