ヌトミック『何時までも果てしなく続く冒険』

初ヌトミック。4年ぶりの新作長編とのこと。生演奏の音楽が全面に出るところが特長でまさに音楽劇だ。基本モノローグで進行するので最初はチェルフィッチュの音楽特化版かと思った。でも社会批評性はないし、語られるストーリーはそこまで整理されてなくて荒削りな状態だ。 目指す方向性が違うようだ。...

『終点 まさゆめ』

今年初観劇。 安楽な老後生活が送れるという惑星《まさゆめ》に宇宙船で向かう船長一人と乗客7人。ところが事故で燃料が流失し1人を放出しなければいけなくなり、まさゆめの生活でで一番役に立たない人を民主的に話し合いと投票で決めることになる。 その後も宇宙海賊の襲撃、疫病が蔓延する宇宙船から...

ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン(鬼澤忍訳)『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』

訳書は上下巻に分冊された大部だが、伝えている主張はこの上なくシンプルだ。ほとんどの紙幅は実例を挙げての検証に費やされている。その主張は、繁栄する国家と衰退する国家を分けるのは、地理的要因でも文化でも、知識の有無でもなく、制度である、と一文で表現できてしまう。 制度といってもいろいろ...

シス・カンパニー『桜の園』

シス・カンパニーとケラリーノ・サンドロヴィッチによるチェーホフ4大戯曲上演もいよいよ4作目。ぼくは最初の『かもめ』以外の3作をみたことになる。もともと『桜の園』は2020年4月に上演するはずがコロナのせいで中止になりようやくキャストをいれかえて上演することになったのだ。 『桜の園』...

スヌーヌー『海まで100年』

「静かな時間。今ここには誰もいない・の・ではないかと思う」という語りからはじまる3人の登場人物の朝の心象風景が語られる。彼らは横浜市鶴見区大黒町の物流センターに派遣社員として働いているという共通点がある(ちょうどそのあたりを通って劇場にたどりついたので奇遇な気がした)。彼らの物語...

城山羊の会『平和によるうしろめたさの為の』

フランス映画にありそうなセックスコメディー。ニュータウン的な地域の小さな公園が舞台。そこに6人の男女がかわるがわるやってきて、公共の場にも関わらず時々隠微な絡みが発生する。彼らの関係性は徐々に明らかになり、まず観客だけが共有する。それを知らない登場人物たちを見ながら観客はやきもき...

テアトロコントspecial『寸劇の庭』

3つの団体による。短編2つ、中編ひとつのコント集。ジャンルでいうとどれもナンセンスコメディー。浮世離れした毒にも薬にもならない笑いのはずで、まあそういうのを求めてもいたのだが、今回はこのジャンルがあまりにピッタリ世の中とリンクしていて驚いた。今やナンセンスコメディーをやるだけで鋭...

『(霊媒の話)題未定—安部公房初期短編集—』

安部公房の作家デビュー前後に書かれた、生前未発表の作品を集めた作品集。けっこう後の作品とは毛色が違う。安部公房らしいクールで簡潔な文体とシュールな物語展開はどこにも見当たらなくて、文体は修飾が多くて晦渋でストーリーは観念的なのだった。なかなか身が入らなくて読むのに時間がかかってし...

M&Oplaysプロデュース『峠の我が家』

これまでみてきたなかで一、二を争う難解な作品。岩松作品はもともと登場人物の心の動きが、饒舌に本心を隠す形で難解になるのが味なのだが、今回はその本心がなかなか見えない。しかもストーリーも錯綜としている。 あまりネタバレにもならないと思うのでストーリーを書き下してみる。 季節はずれで休業...

『ピローマン』

とある独裁国家の警察の取調室が舞台。売れないショートストーリーを書きためているカトゥリアンはトゥポルスキ、アリエルという二人の刑事の取り調べを受けている。最初カフカ『審判』のような不条理な告発かと思うが、カトゥリアンの書く陰惨な物語をまねた子どもの連続殺人事件が起きていることがわ...