KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アメリカの時計』

『アメリカの時計』はアーサー・ミラーの後期に書かれたあまり知名度の高くない作品だ。エンタメに振り切った改訂版は興行的に成功したようだが、この舞台は改訂前のバージョンがベースになっている。舞台は大恐慌時代のアメリカ。大恐慌は名前だけであまりよくわかっていなかったのだけど、今回ちゃん...

古谷田奈月『フィールダー』

TBSラジオの文化系トークラジオLIFEで紹介されていたので読んでみることにした。スマフォゲームが重要なキーとして登場することからエンタメ系だと思っていたが、がっつり人間の実存と社会問題に向き合った作品だった。 主人公は39歳の男性橘。多様な質の雑誌・書籍を出している大手出版社で、...

カレル・チャペック(栗栖茜訳)『サンショウウオ戦争』

閉館10分前の図書館で作者と書名に見覚えがあるという理由で借りたのだが、仰天のおもしろさと読みやすさで、一気に読んでしまった。 スマトラ沖の島で貿易船の船長ヴァン・トフが知性をもつサンショウウオたちと出会う。船長は彼らに天敵のサメをk撃退するための武器と食糧を与え代わりに真珠を採取...

ジョージ・ソンダーズ(岸本佐和子訳)『短くて恐ろしいフィルの時代』

臓器と機械や植物を組み合わせたような異形の住民が住む世界。内ホーナー国という住民ひとりがやっと入れる国のまわりを外ホーナー国という相対的に大きな国が囲んでいた。内ホーナー国のほかの6人の住民は、自分の順番が来るのを待つ間外ホーナー国に設けられた一時滞在ゾーンに身を置いていた。反目...

カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『クララとお日さま』

AIが「心」を持つことはできるのかという問いは何度も繰り返されていまだに結論が出てない問題だけど、本書ではその問いはスキップされて、主人公のAF(子どもの友だちとしてつくられたAIロボット)クララは人間以上に繊細な「心」を持ち、中では複雑な感情が揺れ動いていることが所与のこととし...

コンプソンズ『愛について語るときは静かにしてくれ』

SNSでみかけて急遽みることにした。聞き覚えのある劇団だと思ったのは道理で、2度目のコンプソンズだった。 これぞ小劇場というテンション高めのノリと演出は相変わらず不慣れで、加えて今回気づいたのはこれが演劇であることへの自己言及的なセリフの多さだ。しかし、そういう個人的な違和感とは違...

小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』

現代においてもナチは悪の代名詞としておそらく最強で、だからこそ「ナチも良いことをした」という言説が斬新に感じられて、後を絶たないのだろう。しかもそれが昨今増えているという危機感のもと書かれたのが本書だ。 本書ではそうした言説のひとつひとつを個別撃破している。なかには〈事実〉として間...

今井むつみ、秋田喜美『言語の本質——ことばはどう生まれ、進化したか』

「はじめに」、「あとがき」、そして全体のまとめにあたる「終章」をのぞいて7つの章から構成されているが、そのうち最初の3つの章はオトマトペについて書かれていて、その次の章も子どもの言語習得でオノマトペが果たす役割についての章だ。タイトルからはわからないが本書はオトマトペについての本...

スヌーヌー『長い時間のはじまり』

タイトルに「はじまり」とあるがむしろ終わりからみた物語だ。 舞台は前作『モスクワの海』から引き続いて多摩川西岸の町登戸。ぼくはみてないがその前の作品も登戸が舞台で登戸三部作らしい。 その登戸の多摩川沿いにある小さなアパートCASA Yoknapatawpha(フォークナー作品の舞台の架...

野田地図『兎、波を走る』

まったく予備知識なしにみた。不思議な国のアリス、ピーターパン、桜の園などさまざまなシーンの間を言葉遊びで行き来してがどこに行き着くのか不安に思う瞬間もあったが、ちゃんとすべての言葉がつながって着地した。お見事。 以下ネタバレを含む。 最近の野田地図の着地点は現実に日本でおきた事件で、...