柞刈湯葉『横浜駅SF 全国版』

すっかり忘れていたので『横浜駅SF』を読み直すところからはじめて、あわせて一気に読み通した。 『横浜駅SF』のサイドストーリー。短いプロローグを別にすると、基本的に本編にでてきたサブキャラがメインで活躍する4篇の短編からなる短編集だ。 『瀬戸内・京都編 A Harsh Mistress』はJR北日...

柞刈湯葉『人間たちの話』

『横浜駅SF』の作者の初短編集。収録作は6編だ。 『冬の時代』は次の氷河期が到来して数世代後の日本を旅する若者と少年のスケッチ。長編小説のなかのひとつのエピソードを抜き出したような作品。 『たのしい超監視社会』はオーウェル『1984年』のパロディー。三大全体主義国家の一角ユーラシアが...

伴名練『なめらかな世界と、その敵』

表紙からラノベに毛が生えたようなものを想像していたが、思ってもいなかった本格的なSF作品を集めた短編集だった。SF的なアイデアだけじゃなく、登場人物の感情の動きの自然さと深みがすばらしい。それが物語をダイナミックに駆動する原動力になっている。 表題作の『なめらかな世界と、その敵』は...

明後日プロデュース『青空は後悔の証し』

明後日というのは小泉今日子さん個人のプロデュース会社だそうだ(洒落た名前だ)。場内のアナウンスは小泉今日子さんが担当していた。 窓の外から建設中の塔がみえる高層マンションの一室。そこには元パイロットの高齢男性サワダが病気療養のためひとりで暮らし、通いの家政婦の玉田が毎日世話のために...

ザミャーチン(松下隆志訳)『われら』

完成は1921年なので、ディストピア小説の嚆矢といってよさそうだ。ロシア革命からまだ4年でソビエトの共産主義体制は流動的だし、ナチスは影も形もなかった。そんな時期に現代的というか未来的な全体主義の姿を克明に思い描いたのは先見の明としかいいようがない。 〈単一国〉と呼ばれる壁で外界か...

五反田団『愛に関するいくつかの断片』

2年前に上演しようとしてコロナで中止になった作品の新規まき直し。そのときとはかなり変更したらしい。でもコロナ前の2019年が舞台の物語だ。 加奈が森田に、彼氏の憲治が浮気をしているんじゃないかと相談するシーンからはじまる。その会話がシームレスに加奈とその友人夏子の会話に移行する。つ...

川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

20世紀中庸のアメリカ出身のゲイ作家ジュリアン・バトラー。といってもジュリアン・バトラーは実在しない。その実在しない作家の回想録を書いたのは彼の生涯のパートナーであったジョージ・ジョン。もちろん彼も彼の書いた回想録も実在しない。その実在しない回想録の日本語への翻訳が本書であり、飜...

ミクニヤナイハラプロジェクト『はじまって、それから、いつかおわる』

中央に白い机と椅子、棺のような箱が置かれ、その周りを客席が取り囲んでいる。ちょっとままごとの『わが星』を思い出した。 事故で10年以上植物状態でいよいよ人工呼吸器を外すという奇妙な時間差のある死の形をテーマにした作品。家族はもう思い出は何も残っていないと言う。だから進んだり戻ったり...

吉川浩満『理不尽な進化 増補新版 —— 遺伝子と運のあいだ』

理不尽な(扱いをされてしまいがちな)本だ。 それはタイトルにも責任があって(おそらく本書に興味を持った人の大多数はぼくを含め進化に興味がある人だ)、「進化」と銘打っているにもかかわらず主題が「進化」でないからだ。「進化」に対する人間(その中には専門家も一般人も含まれる)の理解、そし...

ヨーロッパ企画『九十九龍城』

今年初観劇は久々のヨーロッパ企画。 今はなき香港の九龍城とそっくりな九十九龍城という魔窟が舞台。事件の捜査で二人の刑事が遠隔から九十九龍城の屋上の一角を監視する。彼らは謎の最新技術を使って壁の裏側までみることができる。肉屋の家族、パイフォンというバチものを作っている作業場、行方不明...