読書ノート

町田康『浄土』

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ブッツァーティ『神を見た犬』

1906年に生まれ1972年に亡くなったイタリアの小説家ブッツァーティの短編集。 ブッツァーティなんて(日本人にとっては)とてもおぼえにくい名前だけど、難解なところはどこもなく、訳文もこなれていてとても読みやすかった。 おおざっぱにジャンルに関連づけると幻想文学ということになるらしい...

森山大道『犬の記憶』、『犬の記憶 終章』

森山大道本人の言葉を借りるなら、「自身の記憶に基づき、僕を通り過ぎた時間にあった幾多の出会いや出来事について、撮り、記すこと」というテーマはどちらの本も共通しているが、タッチはかなり違っていて、1980年代はじめに書かれた『犬の記憶』は、微細なひとつひとつの記憶の根源をクローズア...

シオドア・スタージョン(矢野徹訳)『人間以上』

形式的には長編小説ではあるが、ひとつのテーマのもとに書かれた3つの中編小説といったほうが近いかもしれない。この作家の本領は短・中編と思ったぼくの直感はそれなりに正しかったようだ。 世間から見捨てられているが実は超能力をもつ子供たちが登場するいわばミュータントものなのだけど、特筆すべ...

飯沢耕太郎『増補 戦後写真史ノート 写真は何を表現してきたか』

本書は日本の戦後の写真表現の歩みを概観しようとした本であり、太平洋戦争の終結から現代までを昭和20年代、30年代、40年代、50年代以降、そして1990年以降(岩波現代文庫収録にあたり増補された章)といういくつかの年代に区切って、そのときどきに活躍した写真家、起きたムーブメント、...

夏目漱石『私の個人主義』

漱石が満州で行った幻の講演の内容が明らかになったというニュースが耳新しい今日この頃、ではまずとうの昔に発見済みの講演を読んでみようと思った。 収録されている講演は5編。最後の『私の個人主義』は1914年すなわち漱石の死の2年前に学習院の学生向けに行われた講演、そのほかは1910年に...

思想地図 vol.1 特集・日本

東浩紀、北田暁大両氏編集による論文誌の体裁をとった書籍あるいは、書籍の皮をまとった論文誌。第一弾は「日本」という一見とらえどころのなさそうなテーマだが、大きく、ナショナリズムと公共性の問題、およびサブカルチャーという二つの核をめぐる論文、討議録が掲載されている。 サブカルチャーは門...

堀江敏幸『河岸忘日抄』

あわただしい労働の日々を抜けだし、異国の河岸に繋留された船の上で半ば隠遁生活を送る「彼」。彼は動かない船の中でただ「待機」する。一見悠々自適の毎日だが、静止した水鳥が水面下で激しく足を動かしているように、彼の思考もまた足下を深くえぐってゆく。それは「ぼんやりと形にならないものを、...

リチャード・ブローティガン(藤本和子訳)『芝生の復讐』

62編からなる短編集。1編あたり4ページ弱で綴られるのは、小説というよりむしろ散文で書かれた詩といった方がいいかもしれない。たとえるなら小説の川が詩の海に流れ込む直前に生息する珍しい微生物たちといったところだろうか。 ブローティガンの幼少時の記憶、家族の話、恋愛、知り合いから聞いた...

ゴーリキイ(中村百葉訳)『どん底』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の舞台をみて、どの部分が脚色でどの部分がオリジナル通りなのか知りたくなって、原作を手に取った。結論としては、ストーリーや重要なセリフの持つ意味などは変えられていないが、細部にはかなり手が入っていた。ギャグの部分が全面的に書き換えられているのは当然と...

シオドア・スタージョン(若島正他訳)『海を失った男』

8編からなる短・中編集。読む前は、シオドア・スタージョンは甘ったるい通俗的なSFを書く人だと勝手に思い込んでいたけど、もちろんそれは大間違いのこんこんちき号だった。 長編を読んでないのであれだが、たぶんストーリーテリングではなく文体やテーマ性で読ませるタイプだ。その関心はSF作家が...

川上弘美『古道具 中野商店』

一時期川上弘美の作品を読みふけったことがあったが、いつの間にか5年以上ごぶさたしていた。作風的には寡作という印象があるが実はかなり多産で、その間に何冊も本がでていたようだ。 中野商店というアンティークというより古道具という言葉が似合いそうな骨董屋を舞台に、そこで働く人々や訪れる人々...

岸本佐知子『気になる部分』

ニコルソン・ベーカーなどの風変わりな英米文学を訳している岸本佐知子さんのエッセイ集。翻訳している作品だけでなくエッセイも風変わりだった。 あたりまえすぎてほめ言葉にならないかもしれないけど、言葉の選択がとにかく的確。さすが翻訳家だなと思った。自虐まじりのかわいたユーモアと、翻訳作品...

アルフレッド・ベスター(中田耕治訳)『虎よ、虎よ!』

長らく絶版になっていたようだが、昨今のプチベスターブームのおかげで復刊された。 テレポーテーションが一般化し発見者の名をとってジョウントと呼ばれている25世紀。ジョウントによる経済状況の変化により太陽系では長い戦争がまきおこっていた。この物語の主人公ガリー・フォイルはなんの取り柄も...

町田康『告白』

明治26年に城戸熊太郎が弟分谷弥五郎とともに一夜に幼児を含む十人の人間を殺した河内十人斬りの事件を題材にした長編小説。文庫で800ページを越える厚さでこの本そのものが武器になりそうだった。 いきなり話がそれるが、昔の方がよほど残酷な事件が多くそれは統計データからも明らかなのに、散発...

安部公房『密会』

安部公房再読シリーズの第3弾は『密会』。最初に読んだ『壁』、次の『燃えつきた地図』と比べると物語の完成度ははるかに上回っている。安部公房の最高傑作のひとつといっても過言でないだろう。 ある夏の朝、身に覚えのない救急車がやってきて、妻が連れ去られてしまう。彼女の行方を追う男。探索の舞...

Bruce Frey(鴨澤眞夫監訳、西沢直木訳)『Statistics Hacks 統計の基本と世界を測るテクニック』

オライリーの統計本ということで、初心者向けの入門書と専門書の中間くらいのトーンで、忘れかけている統計のエッセンスを楽をして思い出せるような都合のいい本を想定していたのだが、統計学を体系立てて学ぶ人向けというよりユーザとして用いる人向けに興味深い話題をちりばめたような本だった。まあ...

トルーマン・カポーティ(村上春樹訳)『ティファニーで朝食を』

オードリー・ヘップバーン主演の映画は何度かみているし、原作も新潮文庫版で読んだことがあるが、村上春樹訳となれば読まないわけにはいかない。 映画は映画で大好きだけど、原作で描かれているようなホリー・ゴライトリーならば、ラストでAチームの人のとってつけたような言葉で改心したりはしないと...

宮下誠『20世紀音楽 クラシックの運命』

現代音楽といえば不協和音ビシバシで、メロディーというものが存在しないか甚だしく見つけにくいかで、とっつきが悪いことこの上ないが、ぼく自身は怖いもの聴きたさでたまに耳を傾けているうちに、耳になじむ曲も出てきているような状況だ。 さて、本書は現代音楽というくくりよりは幅広く、主に20世...

円城塔『Boy's Surface』

4編からなる短編集。 円城塔は2冊目だが、作風を非常におおざっぱにたとえさせてもらうと、グレッグ・イーガンと高橋源一郎とルイス・キャロル(とあと小説家じゃないけどダグラス・ホフスタッターの名前もあげておこうか)を足しあわせたものを、レフラー球からのぞき込んで変換したという感じだろう...