読書ノート

川上未映子×村上春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』

川上未映子による村上春樹へのロングインタビュー。2015年7月9日、2017年1月11日、2017年1月25日、2017年2月2日の計4回、それぞれ長時間にわたるインタビューの内容が収録されている、村上春樹はめったにインタビューを受けない人なので、これまでのインタビュー(主に海外...

コニー・ウィリス(大森望訳)『航路』

臨死体験(NDE)をテーマにした小説。 睡眠を取るのも忘れて、何夜も朝方まで読みふけってしまった。電子書籍だったので本の厚さはわからないが、文庫だと上下巻あわせて1000ページ以上あるはずだ。 NDEを調査する心理学者ジョアンナは薬品を使って人工的にNDEと同様の状態を脳に発生させる...

東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』

「観光客の哲学」といわれるとバブルの頃はやったような凡俗な消費社会肯定論の亜種を想像してしまいそうになる。しかし「観光客」とは「他者」のことだ。リベラリズムが常に訴え続けてきた「他者を大事にしろ」というポリシーが通用しなくなりつつあるなか、従来まじめな哲学考察の対象とされてこなか...

小栗虫太郎『黒死館殺人事件』

はるか昔、半月ばかり入院していたとき読書だけが楽しみで、本があれば何もいらないとまで思ったが、そのとき唯一読めなくて断念したのが本書だ。 気を引き締めて再挑戦してみたが、あれ読める。なんか肩すかしを喰らったような感じだ。その間にいろいろ読書遍歴を重ねたのでそれで読書力が向上したのか...

北杜夫『人工の星』

そういえば北杜夫にSF的でなんともいえない味わいの作品あったよなと思ってつきあたったのがこの本。北杜夫の作品の中からSF的なものをかき集めたアンソロジーだ。読み終わってわかったのだが、ぼくが読みたかった作品は収録されてなかった。 軽くて短いショートショート作品が多い。そのなかでは『...

グレッグ・イーガン(山岸真、中村融訳)『エターナル・フレイム』

この世界とはちがう物理法則をもつ世界を舞台にした三部作の二作目。 母星の危機を救う方法を見つけるため、山をまるごと宇宙に吹き飛ばして何世代にもわたる旅に出た《孤絶》の一行。第一作では《孤絶》の出発と搭乗した最初の世代が直面する問題が描かれたが、本作ではそれから3世代あとの第四世代の...

村上春樹『騎士団長殺し』

好きな登場人物は当然騎士団長です。 これほど集中して本を読んだのはほんとうに久しぶり。まさに読みふけるという感じだった。『1Q84』は、スタイルとしても内容としても村上春樹らしくない作品で一応堪能としたとはいえ、これじゃない感がぬぐえなかったが、今回は決して新しさはないものの村上春...

マーガレット・アトウッド(斎藤英治訳)『侍女の物語』

今やディストピア小説の古典のひとつといっていい作品。ディストピアマニアとしては読んでおかなくてはいけない。 「侍女」という言葉の重々しさから、読む前は今の文明と隔絶した遙か未来か過去、あるいは別の惑星の物語のような気がしていたが、なんと原書が出版された1985年からみると近未来、今...

柞刈湯葉『横浜駅SF』

横浜駅は「完成しない」のではなく「絶え間ない生成と分解を続ける定常状態こそが横浜駅の完成形であり、つまり横浜駅はひとつの生命体である」と何度言ったら — 柞刈湯葉(いすかり・ゆば) (@yubais) January 4, 2015 元はといえばすべてはこのツイートを皮切りに連ツイされた物語の断片からすべてははじまった(ぼくもち...

北杜夫『どくとるマンボウ航海記』

夜と霧の隅でからさらに遡っておそらくこの本が一番最初に読んだ「大人の本」だったと思う。 1958年11月から1959年4月まで半年近く、筆者が船医として水産庁の漁業調査船に乗り込んだ航海の記録。60年近く前の航海日誌読んで意味があるのかなんて考えもしたが(それをいうなら初めて読んだ...

マーク・トウェイン(柴田元幸訳)『ジム・スマイリーの跳び蛙 —マーク・トウェイン傑作選—』

マーク・トウェインといえばトム・ソーヤーハックルベリー・フィンといってしまうのは素人。SF、歴史物、そして晩年は幻想的で奇妙な味わいの作品も書いている。柴田元幸さん編訳ということでさぞかしマニアックなチョイスをしているんだろうと思ったが、短いほら話というような作品がメインで驚いた...

ジャック・ヴァンス(日夏響訳)『終末期の赤い地球』

タイトルにひかれて読んでみた。1950年、ヴァンスのキャリアの最初期に書かれた作品だ。タイトルはSFみたいだがむしろ魔法が活躍するファンタジーだった。 太陽の力が衰えたはるか未来の地球。そこは魔物が跳梁跋扈し科学技術にかわって魔法が使われる世界だった。本書はこの設定をベースにした6...

北杜夫『夜と霧の隅で』

子供の本から大人の本への移行期に読んだ本を何十年かぶりで再読してみた。『ドクトルマンボウ航海記』が気にいって小説に手を出したのだが、あの頃の自分にどれだけわかったか疑問だ。 短編4つ、中編1つからなる作品集。ほとんど内容を忘れている中で、作品の好き嫌いとか良い悪い関係なく、『羽蟻の...

夏目漱石『虞美人草』

夏目漱石の代表作のひとつなのにその存在を忘れていた。朝夢現のときにテレビで内容を紹介していて読もうと思ったのだった。 漱石が教師を辞めて朝日新聞社に入社し作家専業になって書いた最初の作品だ。漢文がベースの流麗な表現がちりばめられていて美しさを感じるものの、現代人(ぼくのことだ)にと...

イザベラ・バード(時岡敬子訳)『イザベラ・バードの日本紀行』

イザベラ・バードは1831年イングランド生まれの女性冒険家。世界各地を旅行しいくつか旅行記を残しているが、その中のひとつがこの日本を訪れて書かれたものだ。まだ維新から10年後の1878年、元号でいうと明治11年だ。5月21日に船で横浜に上陸してから12月24日に同じく横浜から上船...

トム・ジョーンズ(岸本佐和子訳)『拳闘士の休息』

今年の春くらいに書店のイベントで見つけて興味をひかれたが、機会を逸してこのまま読まないで終わりそうなところに作者の訃報。次に読む本に昇格した。 読む前はポストモダンでSF的な作風なんじゃないかと勝手に思っていたが、実際はシンプルで力強い人間ドラマに深い洞察が入り交じる、知っている作...

スティーヴ・エリクソン(越川芳明訳)『きみを夢みて』

久しぶりに読む紙の本にして、『黒い時計の旅』以来2冊目のスティーヴ・エリクソン。 (ストレートには意味をとりにくい)詩的な表現が全編にあふれていて、小説というより壮大な叙事詩を読んでいるような気になってくる。テーマはずばりアメリカ(という理想)だ。ロサンゼルス郊外で暮らすある家族(...

村田沙耶香『消滅世界』

人工授精が一般化しセックスによる生殖が行われなくなった並行世界の日本が舞台。夫婦は人工授精で生まれた子供を育てるための姉弟や兄妹のような関係で、夫婦間でセックスをすることは「近親相姦」と呼ばれてタブーとなり、それぞれ別に恋人(リアルの人間の場合もあればフィクションのキャラクターで...

ジョーゼフ・ヘラー(飛田茂雄訳)『キャッチ=22』

モンティパイソンみたいなナンセンスでシュールなユーモア。本国アメリカではそれほど売れなくてイギリスでベストセラーになったのもうなずける。このユーモアに最初にやにやしながら読んでいたのだが、いや実はこれはユーモアじゃなくて(小説の中の)事実に即しておきたことをそのままのカフカ的な不...

村田沙耶香『コンビニ人間』

コンビニのスイーツみたいにぺろりと読んでしまったが、けっこう個人的に身につまされる作品だった。 幼い頃から周囲の人間たちが理解できず溶け込むことができなかった主人公古倉恵子は、大学生の時にコンビニ店員という職業と巡り会い、30代後半になっても就職も結婚も恋愛もせずずっとアルバイトで...