トンマーゾ・ランドルフィ(米川良夫他訳)『カフカの父親』

カフカの父親 (白水Uブックス)

初めてみた名前だが、ランドルフィはイタリアの小説家。1908年に生まれて1979年に亡くなっている。カルヴィーノやブッツァーティと並んで20世紀イタリア幻想文学を代表する作家とのこと。

16編からなる短編集。タイトルに惹かれて手にとってみた。表題作は5ページ足らずの軽い作品だったが、全体的にこの前読んだカルヴィーノの短編集に期待したような奇想天外な感じだった。こういう満を持して紹介された作家にありがちな難解さもなく、どれも読みやすくおもしろい(ところどころもって回ったような思考や感情の表現はあるが内容の理解の妨げにはならない)。

一番心象に残ったのは『ゴーゴリの妻』。この作品が典型だけど、本書の収録作には、人にあらざるものが登場して、それに対して嫌悪と慈しみの入り混じった感情を抱くものが多い。母乳を噴き出す処女が出てくる、エロチックな夢をそのまま作品化したような『ゴキブリの海』も特徴的だ。そして、比較的短めだが、女性に縁のない男に夜ごと訪れる『キス』の不気味で哀切な後味もすばらしい。

★★