グレッグ・イーガン(山岸真編訳)『ビット・プレイヤー』ebook

ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF)

イーガンの日本で編まれた6冊目の短編集。とはいえ、今回は短編というには少し長めの作品ばかりだ。

『七色覚』は遺伝的な障害を逆手に色覚を人為的に拡張した人々のたどるその後の人生。ちょうど色覚に関する解説記事を読んでいたので、理解しやすかった。苦い結末になりそうでならなかったのはイーガンの人間の拡張性に対する姿勢が見てとれる気がする。

『不気味の谷』は成功した脚本家が、自分の精神をコピーしたアンドロイドを遺産相続人に指定するという話をそのアンドロイド側から描いている。脚本家自身にはなれず、かといって自分のアイデンティティも持てない焦り。そして消された記憶。

次が表題作『ビット・プレイヤー』。意識を得ると、自分はゲーム内のNPCだった。ありえない物理法則が支配するゲーム内世界で最善を尽くそうとする人々。

『失われた大陸』はタイムスリップが出てくるものの、それなしでも成立する作品。現実の難民問題がテーマ。

『鰐乗り』と『孤児惑星』は長編『白熱光』と共通した世界観。ただし舞台となる場所も人物もまったく異なっている。前者は孤高世界をはじめて通り抜けた夫婦の物語。後者は、太陽をもたずほかの星系から離れて独自に移動を続ける惑星におりたった二人の旅行者がくりひろげる冒険譚。

長編は、ハードなSFのアイディアが真ん中にどんとあって、それを転がるのに付随してストーリーも転がっていくような感じがするが、短編だとアイディアは状況設定のみでストーリーや倫理が前面に出てくる。イーガンの倫理は、一言で言えば、知性の可能性と普遍性に対する信頼だ。同じ倫理を共有するものとして、読んでいると勇気づけられる。

★★★