松浦寿輝作品では『半島』が好きで今回あらたに購入して読み返すことにしたのだけど、そのついでに他の作品も読んでみようと選んだのがこの短編集だ。 ...
日本の新人SF作家の短編を14篇集めたアンソロジー。選択の基準は「2022年5月現在で、まだSFの単著を刊行していない」こと。 伴名練さんの作品がすばらしかったので、ほかの現代日本SFも読んでみたくて選んだのだが、予想以上のレベルだった。SFのアイディアもさることながら、それを物語に組み込む手際や描かれている感情の彩りや複雑さがすばらしい。 ...
今までいくつかスピノザ本を読んできたけど、本書はけっこう異色だ。 ひとつめ。スピノザの思想だけでなく家族、生涯、死後の受容に焦点をあてている。いまだにけっこうわからないことが多いのだが、父の事業を受け継いで営んでいたときの訴訟記録や、スピノザの兄弟のその後の行く末(カリブ海の島に渡って亡くなっている)とかこれまで知らなかったようなことがわかった。 ...
目が覚めるとたくさんの管や電極につながれてベッドの上に横たわっている。身体がなぜここにるのか、自分の名前も思い出せない。部屋にはほかに二つベッドがあり人が横たわっているが、どちらも死んでいて、死んでからかなりの年月がたっているようにみえる・・・・・・。このシチュエーションで先が読みたくてたまらなくなった。主人公は徐々に記憶を取り戻し自分がそこ(まあ宇宙線の中なのだが、それだけはネタバレしても大丈夫だろう)にいる理由を知ることになる。次から次へと降りかかる困難に、ある意味地味な科学の手法で解決策を見つけていくのは処女長編の『火星の人』(読んだ気がしていたがぼくは映画をみただけだった)と共通だ。 ...
アメリカのSF作家サラ・ピンスカーの2019年に刊行された現時点で唯一の短編集の邦訳。電子書籍版で読んだが表紙に惹かれて選んだジャケ買いだった。 ...
すっかり忘れていたので『横浜駅SF』を読み直すところからはじめて、あわせて一気に読み通した。 『横浜駅SF』のサイドストーリー。短いプロローグを別にすると、基本的に本編にでてきたサブキャラがメインで活躍する4篇の短編からなる短編集だ。 ...
『横浜駅SF』の作者の初短編集。収録作は6編だ。 『冬の時代』は次の氷河期が到来して数世代後の日本を旅する若者と少年のスケッチ。長編小説のなかのひとつのエピソードを抜き出したような作品。 ...
表紙からラノベに毛が生えたようなものを想像していたが、思ってもいなかった本格的なSF作品を集めた短編集だった。SF的なアイデアだけじゃなく、登場人物の感情の動きの自然さと深みがすばらしい。それが物語をダイナミックに駆動する原動力になっている。 ...
完成は1921年なので、ディストピア小説の嚆矢といってよさそうだ。ロシア革命からまだ4年でソビエトの共産主義体制は流動的だし、ナチスは影も形もなかった。そんな時期に現代的というか未来的な全体主義の姿を克明に思い描いたのは先見の明としかいいようがない。 ...
20世紀中庸のアメリカ出身のゲイ作家ジュリアン・バトラー。といってもジュリアン・バトラーは実在しない。その実在しない作家の回想録を書いたのは彼の生涯のパートナーであったジョージ・ジョン。もちろん彼も彼の書いた回想録も実在しない。その実在しない回想録の日本語への翻訳が本書であり、飜訳と序文、あとがきを手がけたのが本書の著者川本直ということになっている。そして本書と川本直は実在する。 ...
理不尽な(扱いをされてしまいがちな)本だ。 それはタイトルにも責任があって(おそらく本書に興味を持った人の大多数はぼくを含め進化に興味がある人だ)、「進化」と銘打っているにもかかわらず主題が「進化」でないからだ。「進化」に対する人間(その中には専門家も一般人も含まれる)の理解、そしてその理解が必然的に誤解を含んでしまうという「理不尽」に関する本だ。それ以外の科学分野にも少なからず同じような「理不尽」はあるが、「進化」はそれが一番色濃くあらわれる分野なのだ。 ...
日本探偵小説史上の三大奇書の一角を占める作品なので当然昔読んでいて忘れているだけだろうと思っていたが、読み進めてみても一行も記憶に引っかかる部分がないこと以上に、この作品を読んで忘れるはずがない。つまり、まさかの初読だった。 ...
アルジェリア(当時はフランスの植民地)のオランという街にペストが蔓延し封鎖されるという状況で、町の外との別離に苦しむ人々や果敢にペストとの戦いに挑む人々の姿が描かれる。ジャーナリスティックな筆致でリアルに描かれているので、実際にあったことかと思ってしまうが、完全なフィクションで、すべてはカミュの頭のなかから生まれたものだ。ペスト患者の病状や、優柔不断な行政、社会全体としてはパニックには陥らず日常が続いていく姿など、現在進行中のCOVID19を鑑みると非常に予見的で、まるで見てきたかのように思われてしまう。カミュが何を参考にしたのか気になる。 ...
三体三部作の完結編読み終えた。間違いなくオールタイムベストに入る作品だ。 本作の主人公は程心という女性。彼女は運命の巡り合わせで、前作で明らかになった黒暗森林という宇宙の弱肉強食の現実の中で人類の生き残りを賭けた選択を何度も担うことになる。その度に彼女は、自らの頼る原理である愛と平和に基づいた選択をするのだけど、常に裏目にでて、後悔に苛まれることになる。最終的に彼女は人類を越えて宇宙の未来に関する選択もすることになるのだけど、そのときもぶれることはない。 ...
7編からなるミステリー短編集なのだけど、作中作という趣向が凝らされている。グラント・マカリスターという数学者が、ミステリーの構成についての自らの論文の実例として書いた短編集ということなのだ。各短編の合間に、作者グラントと出版のために彼を訪ねてきた編集者ジュリアとの対話が挟み込まれる。グラントの理論とは、殺人ミステリーのキャスト(登場人物)に関するものだ。必要不可欠なキャストを容疑者、被害者、探偵、そして犯人という4つに分類し、それぞれにどういう制約と自由度があるのかを論じている。 ...
次の本までのつなぎとして軽い気持ちで読みはじめたらちょうど半年かかってしまった。理由その一、英語だということ。日本語の3倍くらいかかる。理由そのニ、緊急事態宣言で通勤時間がなかったこと。通勤が一番の読書シチュエーションなのだ。そして理由その三。思ったよりずっと本格的に書かれた本で分量が多かったこと。数式やコードがほとんど出てこないだけで機械学習のエッセンスは余すところなく語られていた。 ...
国道16号に関する個人的な話から。 もともと都心を散歩していてそれが徐々に同心円状に広がっていったのだけど、あるときから16号という道路をやたら目にするようになった。それもまったく離れた場所でだ。あるときは埼玉、あるときは千葉、あるときは八王子、あるときは横須賀。あまりにも神出鬼没すぎて、巨大な環状道路だということがすぐに思いつかなかった。 ...
まずは目次から。 はじめに 第一章 自然に目的はあるのか——西洋における目的論的自然観の盛衰と決定論 第二章 決定論と運命論——ストア派・スピノザ・九鬼周造 第三章 近代以前の自由意志論争とその影響——ホッブズとデカルト 第四章 目的論的自然観は生きのびる——ライプニッツとニュートン 第五章 ダーウィンによる目的論の自然化 第六章 自然化された運命論——現代の決定論的思想の検討 第七章 運命論のこれから 第八章 自然主義のこれから 本書のテーマは「決定論」。すべての出来事はあらかじめ定まっていて変えられないという考え方だ。哲学史上の主要なテーマのひとつで本書のかなりの部分はその軌跡をたどることに費やされる。その中で最大のトピックは「決定論」と「運命論」の違いだろう。これまで「決定論」として語られてきたことの中に相当程度「運命論」が含まれている。実際多くの議論がその混乱の上になされていて驚いた。本書の主眼のひとつは、「決定論」から「運命論」をきちんと分離することだったりする。 ...
捨てられそうになっていたところを救い出し、せっかくなので読んでみた。シュールレアリスムの旗手アンドレ・ブルトンの小説? ...
『三体』の続編。前作で異星文明との接触を果たした人類は同時に侵略の危機にさらされる。侵略者である三体艦隊は400年後に地球に到着する予定なので、余裕があるようにみえるが、「智子」という11次元空間に展開された陽子コンピュータにより、すべての人類の活動は監視され、テクノロジーの進歩は阻害されるようになった。本編では、そんな事態がはじまってから3年目〜213年目の出来事が描かれる。 ...