柞刈湯葉『人間たちの話』ebook

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『横浜駅SF』の作者の初短編集。収録作は6編だ。

『冬の時代』は次の氷河期が到来して数世代後の日本を旅する若者と少年のスケッチ。長編小説のなかのひとつのエピソードを抜き出したような作品。

『たのしい超監視社会』はオーウェル『1984年』のパロディー。三大全体主義国家の一角ユーラシアが崩壊して、残りの二国も変化を強いられている。かつての日本が属するイースタシアでも改革がおこなわれて国民が互いに互いを監視する体制になっていた。人々はSNSでフォローするような感覚で監視対象を選び、他者の監視が娯楽になっている。個人的にいちばんおもしろかった作品だが、ディストピアマニアとしてはこの体制に順応してない人の視点からのイースタシアを見てみたくなった。

表題作『人間たちの話』は30代男性研究者とその甥の家族の物語。どこがSFかというと、主人公の研究対象。初の地球外生命と言われるものが、なんかしょぼい濃度に濃淡がある有機物だったりするという十分ありえそうな近未来。

『宇宙ラーメン重油味』は、太陽系の外縁部にある、消化管があればどの星系からの客にも対応するというポリシーのラーメン屋を舞台にした宇宙料理SF。

『記念日』は同名のマグリットの絵画からダイレクトなインスピレーションを受けた作品。あんな岩が実際に突然部屋の中にあらわれたら・・・・・・。

『No Reaction』は中学生の妄想全開の透明人間ものと思いきや本格ハードSFであり透明人間(というか暗黒人間といったほうがいいかもしれないが)の絶対的な孤独について考えさせられる話でもある。

『横浜駅SF』はけっこうアイデア先行で勢いで書かれたというかその勢いがものすごいんだけど、この短編集は硬軟取り混ぜて、読者の想像力と抒情のための隙間が残された作品も含まれている。そういういろいろなタイプの作品が読めるのは短編集ならではだ。

そして『横浜駅SF』の続編を読みたくなった。

★★★