酉島伝法『るん(笑)』

タイトルからちょっとふざけた作品を想像していたが、かなりシリアスなディストピアものだった。 世界観と登場人物が共通する、中編といっていいくらいの長さの作品が3篇収録されている。舞台はおそらく未来の日本。そこでは合理的な思考や科学知識が蔑まれスピリチュアルなものが生きる上での共通の基盤になっている。それは衆愚化といえるものではなく実際にスピルチュアルなものが効果をもつ世界になっているようなのだ。言霊がリアルな力をもち、龍が実際に生きて動いていたり、肉体が滅びても魂だけ「触れ合いの街」という別の街に旅立つことになっている。 ...

鏡明『不確定世界の探偵物語』

見慣れた街並みが突如として変わったり、目の前で話していた男が、見知らぬ人間に変わってしまうことが日常的におきるような世界が舞台。それはエドワード・ブライスという実業家が発明したワンダーマシンという一種のタイムマシンによってもたらされたものだった。ブライスは世界を少しずつよい場所に変えるという目的のもとでワーダーマシンを操作し世界を変え続けているのだった。 ...

小川哲『嘘と正典』

長いことぼくにとって小川哲さんは小説家ではなく村上Radioプレスペシャルのラジオパーソナリティーだったのだが、はじめて作品を読んでみた。 小説家を分類するには何に忠実かということをみればいいと思っていて、倫理感や思想性、文体を含めた詩情、SFというジャンルならジャンル特有の世界観やセンス・オヴ・ワンダー、忠実であろうとするものは人それぞれだが。小川哲さんにとってはストーリーテリングなんじゃないかと思った。冒頭の『魔術師』という作品からしても似ていると思った英語圏の作家はクリストファー・プリーストだ。彼もまたストーリーの巧みさで読ませるタイプの小説家だ。 ...

伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』

日本の新人SF作家の短編を14篇集めたアンソロジー。選択の基準は「2022年5月現在で、まだSFの単著を刊行していない」こと。 伴名練さんの作品がすばらしかったので、ほかの現代日本SFも読んでみたくて選んだのだが、予想以上のレベルだった。SFのアイディアもさることながら、それを物語に組み込む手際や描かれている感情の彩りや複雑さがすばらしい。 ...

柞刈湯葉『横浜駅SF 全国版』

すっかり忘れていたので『横浜駅SF』を読み直すところからはじめて、あわせて一気に読み通した。 『横浜駅SF』のサイドストーリー。短いプロローグを別にすると、基本的に本編にでてきたサブキャラがメインで活躍する4篇の短編からなる短編集だ。 ...

柞刈湯葉『人間たちの話』

『横浜駅SF』の作者の初短編集。収録作は6編だ。 『冬の時代』は次の氷河期が到来して数世代後の日本を旅する若者と少年のスケッチ。長編小説のなかのひとつのエピソードを抜き出したような作品。 ...

伴名練『なめらかな世界と、その敵』

表紙からラノベに毛が生えたようなものを想像していたが、思ってもいなかった本格的なSF作品を集めた短編集だった。SF的なアイデアだけじゃなく、登場人物の感情の動きの自然さと深みがすばらしい。それが物語をダイナミックに駆動する原動力になっている。 ...

酉島伝法『宿借りの星』

ありきたりじゃない物語が読みたかった。ありきたりじゃないということにかけては、この本の右に出るものはなかなかないだろう。なにせ主人公マガンダラは四つ脚で歩行し、四つの目で前後を一瞥し、大きな尻尾があるという異形としかいいようがない姿をしている。マガンダラの種族はズァンググ蘇倶という支配的な所属だが、御惑惺様(おほしさま)と呼ばれる彼らの住む惑星には、ほかにもたくさんの種族がいる。かつてこの惑星は人類——卑徒(ひと)と貶められて呼ばれている——に支配されていたが、御惑惺様の力により彼らが集められ、卑徒をこの惑星から滅亡させたのだ。その勝利から数世代分の年月が経過し、惑星と社会それぞれにさまざまな衰えと退廃がみられるようになってきた。 ...

柴田勝家『ヒト世の永い夢』

ふざけたペンネームだと思っていたが、作品は本格的だった。名前を聞いただけでワクワクしてくる南方熊楠、江戸川乱歩など昭和初期の名士たちが活躍し、粘菌による人工知能を開発し、少女型「人形」に組みこむという、ロマンあふれるSF巨編。 ...

柞刈湯葉『横浜駅SF』

横浜駅は「完成しない」のではなく「絶え間ない生成と分解を続ける定常状態こそが横浜駅の完成形であり、つまり横浜駅はひとつの生命体である」と何度言ったら — 柞刈湯葉(いすかり・ゆば) (@yubais) January 4, 2015 元はといえばすべてはこのツイートを皮切りに連ツイされた物語の断片からすべてははじまった(ぼくもちゃんと2日あとに見つけていた)。やがてネットで連載され、賞をとり、書籍化されたのがこの本だ。ぼくはネットの連載(今でも読める)はスルーしてしまったが、書籍化の際に大幅に加筆されているそうだ。 ...

酉島伝法『皆勤の徒』

はじめてお金を出して買ったKindle本。 暴走するナノマシーン、人格のデジタル化、サイバーパンク的仮想世界、さまざまな異形に進化した人類、知性をもつ惑星など最先端のSFのアイディアがてんこ盛りの上に、「塵機」、「兌換」、「形相」など用語が独特で初見では字面からぼんやりと想像することしかできず、わからないままにSFというよりカフカ的な不条理小説として読み進めたのだった。巻末の大森望さんの解説を読んでようやく腑に落ちた。 ...