ポール・オースターの初期のエッセイを中心に編まれたアンソロジー。原書は出版社が変わったり版を重ねるごとに内容が追加されているらしい。本書も文庫化にあたって、3編追加されている。 エッセイの大半は小説発表前に書かれた、日本であまり紹介されていない詩人たちに関するもの。その部分は正直退...
ニッポニアニッポンというのは絶滅が危惧される鳥トキの学名。そのトキを名前の一部に持つ17歳の少年鴇谷春生は、トキを鬱屈した思いをぶつける対象にして、パラノイア的な妄想を拡大させていき、ついには佐渡にあるトキ保護センターの襲撃を思いつく。 最初は主人公にも物語にも感情移入できなかった...
「ショックなこともあるけど、カラスをきらいになれない」というのがぼくがカラスに抱いている率直な気持ちだ。そんなカラスの行動の謎を脳と身体の研究成果から解き明かす本。 滑り台で遊ぶという話や、くるみを車道に落として車に割らせるという話があるように、カラスが頭がいいというのはほんとうの...
バロック期の写実的な絵画が好きでよく観にいったりするのだけど、見えるものをそのまま描いたものはほとんどなくて、ひとつひとつの図像に意味が隠されているという話をきいて興味をもった。この本を手に取った理由はそういうところにある。 絵が直接的に描いているものが何かということを研究する学問...
はるか昔に買って挫折していた本。挫折した理由は、読んでいて知の欺瞞騒動が頭にちらついてしまったからだ。現代の哲学者たちは自然科学の難解なジャーゴンを振り回すけど、その自然科学への理解は誤っていることが多いことが明らかになった事件で、本書にもその手のジャーゴンがちらばっているように...
「他者」とはなんだろう。柄谷はそれを同じ「言語ゲーム」(ウィトゲンシュタイン)に属しておらず、「教える-学ぶ」という態度で臨まなければならない相手だといい、そこには「命がけの飛躍」が必要なのだという。 最初ちょっと難解に感じたが、同じテーマが何度も何度も波のように繰り返されるので、...
このところ新書ばかり読んでいたので久しぶりの小説だ。その中でも高橋源一郎を読んだのはほとんど前史といっていいくらい昔のことだ。本の題名も内容も忘れてしまったが、さまざまなパロディーや、ストーリーの流れの故意の破綻など、小説はここまで自由に書けるんだという驚きを感じたと思う。ただ、...
とにかくフェルメールの絵はすごい。だが、そのすごさを難解な言語で表現しようとする批評家たちに筆者はノーととなえる。そんな現代の主観的な視点から語るのではなく、17世紀オランダという時代・場所でフェルメールがどのような意図で作品を描いたかを実証的に解き明かすことが、彼の作品を理解す...
この本もまた責任に関する本だ。最近もあったが、少年犯罪が起きると決まってその親の責任が問われる。これは欧米にもアジアにもみられない日本独特の現象らしい。その責任は「世間」に対するもので、この「世間」をおそれて日本では親も子も互いに拘束されながら生きざるを得ない。親子関係以外でも、...
ぼくは日本人としてはかなり異端に属すと思っているが、それでもしっかりホンネとタテマエを使い分けて生きていて、よく、タテマエに従うふりはするけどホンネは守るぞというような考え方をしてしまうことがある。筆者は、実はタテマエとホンネどちらも入れ替え可能で、「どっちでもいい」という、思想...
よくみにいく劇団「青年団」の主宰である平田オリザ氏の演技・演出論。直前に読んだ本がウィトゲンシュタインに関する本だったので、本書の中の演劇論的な部分を読んでいると、ウィトゲンシュタインが「言語ゲーム」について語っていたことと共通することが多いことに気がつく。 要はいかにして「リアル...
哲学することと哲学の研究をすることは方法論としてかなりちがうことで、後者には文献学のこつこつとした実証的な作業が必要なのだと思う。本書は、難解で警句のような短い文体で知られるウィトゲンシュタインについて、その遺稿すべてを書かれた時期ごとに分析することにより、彼がいわんとしたことを...
タイトルは、実は『「みんな」の壁』にしようとしたのではないかと勘ぐりたくなる。 「赤信号みんなで渡れば怖くない」の「みんな」とは誰のことなのだろう。というところからはじまって、「みんな」がだんだんバカになってゆく大衆社会の構造、「みんなの責任」という名前の無責任の体系ということに話...
哲学系の本を読んでいると、たとえ名前は明に語られなくても常にちらつく人影。それがカントだ。一度ちゃんと読まなくてはと思って、手に取ったのが、カントの著作ではなく、入門書だというのは我ながらかなりへたれだと思う。 でも、本書は一般向けの入門書にしてはかなり難解だ(もう少しパラフレーズ...
様相論理というのは、古典的な述語論理に加えて、「可能」とか「必然」という様相をあつかえる体系なのだけど、そこでは「可能世界」という概念が前提とされている。つまり、ぼくらが存在しているこの世界以外に、無数のそうもありうるような世界が存在しているとするのだ。その概念を使えば、「可能」...
タイトル通り寝ながら学べるかどうか試してみたら、ほんとうにできた。とてもわかりやすく書かれた本だ。ここはひっかかりそうだなというところでは、必ずわかりやすく言い換えてくれるので、怯えることなくすらすら読めてしまう。 学生時代は本屋の棚を眺めると「構造主義」という言葉がたくさん並んで...
近代以前は万物の源泉を探求するのは哲学の仕事だったけど、今ではそれは自然科学に委ねられている。晦渋な形而上の言葉に代わるのはそれ以上に難解な数式だ。その数式をできる限り使わずにイメージだけでも理解してもらおうというのが本書の目的になっている。 すべては極めて微少な10次元空間のひも...
近代西欧社会に登場した規律=訓練型の権力は「知」すなわち学問、文化と結びつくことによって大きな力を発揮した。西欧がオリエントを植民地として内部に組み込んでいく中で、観る側(=西欧)、観られる側(=オリエント)という非対称で差別的な視線から「オリエンタリズム」という支配する知として...
経済学や社会学への応用を目的に発展しつつある、確率に関する比較的あたらしい理論を平易に紹介することが本書のひとつのテーマだ。たとえば、スパムメールの検出にも使われているベーズ推定(実はとても古い理論だが)、確率すらわからないような不確実性を嫌う人間の性向を数理的にモデル化したキャ...
ゲーデルといえば、「不完全性定理」。本書もその例にもれず、はじめに、アナロジーやパズルを使って、不完全性定理を解説している。だが、この部分は同じ講談社新書の野矢茂樹『無限論の教室』の方が深くつっこんでいてしかもわかりやすいと思う。 本書の主眼はそこにはなく、ゲーデルの波瀾万丈の人生...