ミランダ・ジュライ(岸本佐知子訳)『いちばんここに似合う人』

映像作家、パフォーマンス・アーティストという肩書きをあわせもつアメリカの多才な小説家ミランダ・ジュライの16編からなる短編集。 ...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『オラクル・ナイト』

「私は長いあいだ病気だった。退院の日が来ると、歩くのもやっとで、自分が何者ということになっているかもろくに思い出せなかった。頑張ってください、三、四ヶ月努力すればすっかり元気になりますから、と医者は言った。私はその言葉を信じなかったが、とにかく忠告には従うことにした。一度は医者たちにも匙を投げられた私だ。彼らの予測を裏切って、不可解にも死にそこなったのだから、未来の生活が待っていることにして生きるしかないじゃないか?」 ...

Kazuo Ishiguro "Nocturnes"

英語のペーパーバックを読み通したのは村上春樹の短編の英訳版に続いてこれが2冊目。読みやすいかと思ったけど、いきいきした俗語表現の意味をとるのにてこずった。 ...

岸本佐知子編訳『変愛小説集II』

「恋愛」じゃなく「変愛」。編訳者によるあとがきから引用すると「愛にまつわる物語でありながら、普通の恋愛小説の基準からはみ出した、グロテスクだったり極端だったり変てこだったりする小説」を集めたアンソロジーの2集目。最初は当然のように1集目から読もうと思っていたが、たまたま本屋に置いてなかったので、こちらを手に取った。サイン本だ。 ...

サン=テグジュペリ(二木麻里訳)『夜間飛行』

20世紀に入って電気が都市の照明に使われるようになり、闇が光で満たされるとのと前後して、飛行機が空を飛び始める。しかし、これら二つの神秘の領域、夜と空が重なる、夜間の空は、長い間未踏の領域だった。この小説は、1930年前後、まだ危険だった夜間の空を、郵便機に乗って飛んだ、いわば開拓者たちの物語だ。 ...

セルバンテス(牛島信明訳)『ドン・キホーテ(前編)』

<img src=“http://i0.wp.com/ecx.images-amazon.com/images/I/51MNZKBHXDL._SL160_.jpg?w=660" alt=“ドン・キホーテ〈前篇3〉 (岩波文庫)” class=“alignleft” style=“float: left; margin: 0 20px 20px 0;”” data-recalc-dims=“1” /> ...

チャイナ・ミエヴィル(日暮雅通・他訳)『ジェイクをさがして』

13編の短編小説と1編のコミック(ミエヴィルは原作のみ)からなる作品集。 最初の数編はグロテスクなのだけが特長のホラーないしオカルトとしか思えなくて、ああ、これは間違えた本を買ってしまった、と後悔したが、読み進めるうちにだんだん楽しみ方がわかってきた。どちらかといえば目をそらしたくなるような気持ちの悪い特異点のようなもの。そこにあえて注目し、決して目を離さない。たぐいまれな表現力だけを武器に、起承転結的な説明をつけようとする力にあらがって、どこまでも最初の気持ち悪さに忠実に物語が展開する。その展開の突拍子もなさと裏腹に、具体的に挙げられるロンドンの地名。たぶん、ロンドンを知っている人にとってはそれぞれ特別な情感を呼び起こす地名なのだろう。東京に住む人にとっての、六本木とか新小岩と同じように。 ...

マイケル・サンデル(鬼澤忍訳)『これからの「正義」の話をしよう 今を生き延びるための哲学』

あなたは路面電車の運転士で、ブレーキがきかないことに気づく。前方には5人の作業員。待避線に入れば5人の命は助かる。だが、そちらにも作業員が1人いる。あなたはまっすぐ進むのと待避線に入るとのどちらを選択すべきか。あるいは、あなたは同じ事故を目撃している傍観者で、橋の上にいる。今度は待避線はないが、目の前に太った男がいる。彼を橋から突き落とせば1人の犠牲ですむ。その行為は正当化されるのだろうか? ...

村上春樹『1Q84 BOOK 3』

正直 BOOK 2 はあまり楽しめなかった。BOOK 1 では思う存分羽ばたいていた想像力の翼が、村上春樹自身がリーダーの預言に支配されたかのように、普遍化することの不可能な、青豆と天吾二人の特殊な愛の物語に縮まってしまったように思えたからだ。とはいえ、「BOOK 3はたぶんない」と書いたのにBOOK 3が発売されてしまった負け惜しみでいうのではなく、物語としては、BOOK 2で十分完結していたと思う。だから、これはBOOK 2 でバッドエンディングになってしまったところからやり直したリプレイといえるかもしれない。 ...

チェスタトン(南條竹則訳)『木曜日だった男 一つの悪夢』

無政府主義者憎しの一念でにわか警官に採用されたサイムは、偶然無政府主義者たちの幹部会議にもぐりこむことに成功する。議長である白髪の巨漢「日曜日」を筆頭とする7人のメンバーで構成され、サイムは「木曜日」と呼ばれることになる。そして、追いつ追われつの奇妙な追跡劇がはじまる……。 ...

シャーロット・コットン(大橋悦子・大木美智子役)『現代写真論 コンテンポラリーアートとしての写真のゆくえ』

本書は、コンテンポラリーアートとしての写真を、×写真家を羅列するのではなく、×様式やテーマで分類するのでもなく、×歴史を通して語るのでもなく、○写真家のモチーフや製作方法で分類し、その世界の広がりを概観しようとした本だ。 ...

最相葉月『星新一 1001話を作った人』

<img src=“http://i0.wp.com/ecx.images-amazon.com/images/I/511zAOf0GtL._SL160_.jpg?w=660" alt=“星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)“class=“alignleft” style=“float: left; margin: 0 20px 20px 0;” data-recalc-dims=“1” /> ...

古川日出男『僕たちは歩かない』

そんなこといわずに歩こうよ、と最初思ったが、歩かないのにはそれなりのわけがあったのだ。 1日あたりの時間が2時間多い26時間制の東京。フランス料理のシェフになるという目標を共有し、それぞれの方法でそこにやってきた「僕たち」は、増えた2時間を使って修行に励む。しかし仲間の一人が事故で死んでしまい、彼女に会うため、「僕たち」はある規則に従いながら冥界を目指す。その規則とは、途中地面に足をついてはいけないこと、つまり歩いてはいけない……。 ...

デイヴィッド・アンブローズ(渡辺庸子訳)『リックの量子世界』

SFのジャンルの中でも並行世界ものに特に目がない。タイムトラベルものだとどうしてもいった先の時代の描写とかタイムパラドックスの回避方法なんかに紙幅を費やしてしまうが、並行世界ものは純粋にアイディアを展開できるし、物語の自由度も高い気がする。2009年の終わりから2010年のはじめに書けては、東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』、本書、と並行世界ものが立て続けに出版され、並行世界ファンにとってはうれしいシーズンだった。しかも、『クォンタム・ファミリーズ』三島賞受賞の報が、本書を読んでいる間に届くとは。 ...

柄谷行人『トランスクリティーク----カントとマルクス』

高くて分厚い単行本を手にとってため息をついてまた戻したことがあったが、文庫化されたのでようやく入手。 一般的に、カント→ヘーゲル→マルクスという矢印の右側が左側を批判的に乗り越えて新たな哲学体系をたちあげたということになっているが、本書ではその真ん中に位置するヘーゲルの価値を切り下げて、カントとマルクスの間をダイレクトにつなぐ。つまり、ヘーゲルはカントを乗り越えられなかったし、マルクスにおいて、ヘーゲルによって否定されたものが再び復活していると読む。両者に共通するのは、二つの相反するものの間に立ってどちらか一方に安住することなく絶えず視点を移し続ける態度だ。カントは経験論と合理論の間でそうしたし、マルクスも一般的な理解と異なり(マルクスはマルクス主義者ではなかった!)何か体系を作りあげることなく常に既存の体系の批判者として振る舞っていたとされる。 ...

ジェーン・オースティン、セス・グレアム=スミス(安原和見訳)『高慢と偏見とゾンビ』

オリジナルの文章、ストーリー展開はほとんどそのままに(ただし一部のあまり主要でない登場人物たちはかなりひどい最期を遂げる)、1割だけゾンビとの戦闘シーンやちょっぴりお下劣なギャグを挿入した、『高慢と偏見』ゾンビふりかけバージョン。ゾンビ部分は、けっこうえぐい味。最初のうちこのゾンビ味が新鮮だが、だんだんパターンがみえてきてしまった。もう少し工夫してもよかったんじゃないかな。 ...

ジェーン・オースティン『高慢と偏見』

『高慢と偏見とゾンビ』というパロディーのマッシュアップ作品が刊行されたらしい。「これください」「ゾンビ入りにしますか、ゾンビ抜きにしますか?」「えーと」「最初ゾンビ抜きを試してからの方が、よりゾンビの味が楽しめると思いますよ」「じゃ、抜きで」 ...

フリッツ・ライバー(中村融編)『跳躍者の時空』

本書の存在を知ったのと、フリッツ・ライバーの名前を知ったのは、完全に同時。だから、受け売りで書くが、フリッツ・ライバー(1910-1992)はSF、ファンタジー、ホラーなど幅広い分野で活躍したアメリカの小説家だ。ライフワーク的な『ファファード&グレイ・マウザー』シリーズが有名らしい。そのほか時代に先行するような長編小説をいくつも書いているし、中・短編も200以上ある。本書は、その中から10編をよりすぐった短編集だ。 ...

岸本佐知子『ねにもつタイプ』

翻訳家岸本佐知子さんの奇想天外なエッセイ集。 腹をかかえたりあっけにとられたりするうちに、妙な親近感や懐かしさのようなものが芽生えてきた。なんだろうと思ったら、子供の頃に感じていた感覚なのだった。子供の頃は目にするものすべてが不思議でとんちんかんなことばかり考えていたけど、そこには子供なりの筋の通った論理があり、いつの間にかそれが大人の論理に移行しただけなのだ。ぼくなんかはもうすっかりその頃考えていたことを忘れていたけど、岸本さんはエピソードのひとつひとつを事細かに覚えていて、かつその頃の視点を今に蘇らせてまわりの世界を眺めることができる。とても希有な能力で、うらやましい。 ...

Haruki Murakami "Blind Willow, Sleeping Woman"

われながら、村上春樹を英語で読もうなんて、かなり倒錯していると思う。もともと英語の勉強6割、読書の楽しみ4割くらいのつもりで読み始めたのだ。 ...