サンプル『永い遠足』

これまでのサンプルの作品はすべてこの作品への布石だったのかもしれない。そう思わせるような最高傑作。 生みの母を妻にして子供までつくってしまうオイディプス王のギリシア悲劇をベースに、血のつながらない娘との関係に悩む家族、桃太郎と名乗る妙なカリスマのある男、電脳空間をかけめぐる仮想人格マネキン、新天地を夢見るバイオ実験から生まれた知性のあるネズミなど、現代社会のアクチュアリティーとSF的な想像力を取り入れて新しい神話を紡ぎだしている。 ...

『シダの群れ 第三弾 港の女歌手編』

第二弾は見逃したので、第一弾以来のシダの群れ。阿部サダヲ演じる森本という男以外は新顔だが、劇中第一弾の登場人物に対する言及がある。わからなくても問題はないが、第一弾を見ていたほうが森本という不可解な男に対する理解は深まるだろう。 今回もゴッドファーザー的なヤクザたちの友情と裏切りの物語だが、小泉今日子演じる酒場の歌手ジニーがそこにからんでくる。第一弾では予定調和の物語を突き崩すパワーを放った森本の実存が、ジニーの存在によってかすんでしまい、単なるかわいそうで危険なアスペルガーに堕してしまった気がする。紋切り型を楽しむ企画とはいえ、ジニーの存在もあまりに紋切り型だった。 ...

青年団『もう風も吹かない』

もう風は吹かない 財政が破綻した近未来の日本。青年海外協力隊の廃止が決まり、最後の派遣隊員となる若者たちの、訓練所を舞台にした群像劇だ。訓練生の間の恋愛、ドロップアウトして退所する者、所内での飲酒禁止をやぶる、本部からの視察など、人間模様のおもしろさを味わいつつも、それを通じて社会がみえてくる。 ...

イキウメ『片鱗』

片鱗 黒沢清監督が映画にしそうなモダンホラー。客演の手塚とおるさんがセリフなしで名前もない不気味な男という大胆な配役で驚いた。人の良さそうな父と娘の二人家族が引っ越してきた途端、怪しい人影がうろつき、植物が枯れ、住民が精神の平衡を崩しはじめる……。 ...

野田地図『MIWA』

「えー、美輪明宏?!」と最初この公演の話をきいたときは what?, how?, why? と疑問の洪水だった。見たことはないけどテレビのスピリチュアル番組の片棒を担いでいた人というイメージが強かったのだ。 ...

文学座アトリエの会『未来を忘れる』

サンプルの松井周の書き下ろし作品ということで初めての文学座。 薬品の力でゴキブリの姿で生まれた新世代の人間が語る黙示録的な近未来日本史。彼の父と母(ふたりとも普通の人間)の物語が主軸になっている。 ...

青年団国際演劇交流プロジェクト『愛のおわり[日本版]』

舞台がまるでボクシングのリングみたいに男と女が対角線上に位置し言葉による戦いが行われる。ただしほんとうのボクシングとパンチの応酬はなく攻撃するのはどちらか一方のみ。前半は男が攻撃し、後半は攻守所をかえて女のターンになる。賭けられているのは二人の「愛のおわり」だ。 ...

五反田団『五反田の朝焼け』

五反田団の劇団員だけで作った舞台。前作『五反田の夜』から2年ぶりだ。登場人物が共通しているので、一瞬同じ作品の再演に来てしまったのかと思ったが、続編だった。前作もおかしかったけど、今回も腹を抱えて笑えた。連休最終日の憂鬱を吹き飛ばしてくれた。 元祖アンドロイド演劇ということで人形の劇団員山田も出演。西田摩耶さんとのからみがよかった。それを含めて西田さん今回も捨て身の演技がすごかった。 ...

ハイバイ『月光のつゝしみ』

2002年に岩松了自身の演出、竹中直人、桃井かおり主演でみたときは軽い芝居だと思っていた。今日観て思ったのは、岩松了の書くセリフの困難さだ。 ...

遊園地再生事業団『夏の終わりの妹』

中野区と新宿区に接する渋谷区のはずれの町汝滑町(うぬぬめまち)には独自のインタビュアー資格制度というのがあり、そこの住民は試験に合格すると誰にでもインタビューを申し込む権利が得られるが、資格をもってない人は質問をしてはいけないという決まりがある。共働きの主婦謝花素子は、学生だった10年前にみた故郷沖縄を舞台にした映画『夏の妹』を撮った映画監督(名前は明らかにされないが大島渚だ)になぜこんなわからない映画を撮ったのかをききたくて、毎回インタビュアーの資格試験を受けているが、勉強する時間も気力もないので落ち続けている。震災を機に彼女のそんな姿勢や試験の制度に変化が訪れ、彼女は合格する…… ...

劇団、<del>本谷有希子</del>『ぬるい毒』

今回は本谷有希子は原作のみで脚本と演出が『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督。映像の人が舞台やるとけっこう微妙なことが多いので、どうかなと思っていたが、すばらしい仕上がりで驚いた。あら探しでいうと、舞台空間での人の動きをもう少しダイナミックにしたほうがいいとかそれくらいだ。 ...

ミクニヤナイハラプロジェクト『前向き!タイモン』

なんだか前半寝落ちとかいうツイートが散見するので、どんな芝居か不安混じりで見にいったら、おそろしい早口で次から次へと繰り出される言葉の強度、それぞれのエピソードが喚起する物語の奔流で瞬きするのも忘れるくらいだった。 ...

カタルシツ『地下室の手記』

イキウメの別館カタルシツ第1回目はドストエフスキーの小説『地下室の手記』の舞台化。ほぼ一人芝居になりそうで集中力がもつかどうかちょっと不安だったが、安井順平さんの語りが予想以上にすばらしくて飽きることがなかった。一人芝居は客席との対話なのだ。通常の俳優としての力量とは別の能力を要求される気がする。 ...

FUKAIPRODUCE羽衣『Still on a roll』

水商売の年下の恋人に小遣いをもらいながら暮らす無職中年男性が、恋人を待つ間に夢みる想像の世界〜どこかの広大な農場〜を舞台にしたミュージカル。この明るさ全開の歌と踊りにはあまり感情移入できなかったのだが、現実の世界にかえってきてからがよかった。スナックにつとめる恋人とパトロン男性のからみ、海をみたいときにトイレにいく(大意)という歌、すごくよかった。そしてラストシーンのなんともいえないほろ苦さ。 ...

シベリア少女鉄道『遙か遠く同じ空の下で君に贈る声援2013』

初のシベ少。途中3/4くらいは、その乗りの過剰さを含めて小劇場演劇の王道をいく感じで、ただ各キャラクターに決めゼリフがあって、それをいったあとに録音された笑い声が入るのが往年のアメリカのシットコムみたいで、いまの小劇場演劇ではユニークだと思った。場所は昔ながらの喫茶店、勘違いキャラで切れると何をするかわからないこずえは五代(役名はみなめぞん一刻から借りている)と付き合っていると思い込んでいる。その五代はどうやら近くで別の女性との待ち合わせがある様子。まわりの人間たちは事を荒立てないためにさまざまな策略をこらすが、天性のいたずら娘、ウェイトレスの朱美のせいでどんどんはちゃめちゃになっていく。彼女がすべての問題の中心だったのだ。とまあ、たわいない現実性のないストーリーではあるんだけど、やはりそこにもアメリカのシットコムの乗りを感じて楽しめた。 ...

M&Oplaysプロデュース『不道徳教室』

基本的に芝居の前には予習をしない。感動を最大化するには事前に余計な予備知識はない方がいいと思っていたからだ、でも、今回は多少なりとも補助線があればぼくの貧弱な想像力が正しい方向にジャンプできただろうとこぼしたミルクを嘆いてしまう。 ...

重力/Note『リスボン@ペソア』

最初にはじめたのが誰なのかほんとうのところはわからないが、ぼくがこれまでみてきた範囲でいうと、チェルフィッチュが痙攣的な身体だの動き、振りつけとともにセリフをいう方法をはじめ、京都の劇団地点が、セリフに奇妙な抑揚や強弱をつけて異化する方法を編み出し、それを既存の戯曲に適用した。今、この二つの方法はそれなりに広く広まっているようだ。重力/Noteは初見でふだんはどうかわからないが、今回の公演ではその系譜に連なる手法をうまくとりいれている。 ...

城山羊の会『効率の優先』

あるオフィスの一室が舞台。美人で有能な部長の下、多忙をきわめている部署だが、いろいろな出来事の連鎖で社員の間で互いの間の好悪の感情があちこちで噴出し、仕事どころではなくなっていく。やがてそれが痛ましい事件、事故につながっていくわけだが、それでも彼らは仕事を続けるためと称してそれを隠蔽しようとする…… ...

イキウメ『獣の柱 まとめ*図書館的人生㊦』

前回の「まとめ」は短編集だったが、今回は長編。 見たものは誰でもとてつもない幸福感に恍惚とし飲み食いも何もできなくなってしまい、そのまま放置すると死に至るという不思議な隕石が落ちてきた数年後、同じ物質でできた巨大な柱が世界各地の都市に落下する。ある人口密度を越えると柱が落ちてくるという性質に気がついた人類は、都市を放棄し、農村に小さな共同体を築いて住みようになり、柱は覆い隠されて神格化されるようになる。そんな中、柱を直視できる新しい世代の若者たちが誕生しはじめ、世界はあらたなステージへと入る……。というSF巨編。 ...

酒とつまみ『もうひとり』

去年の8月以来、9ヶ月ぶりの下北沢での観劇。 酒とつまみというのはナイロン100℃の村岡希美さんと元猫ニャーの池谷のぶえさんのユニット。 ...