M&Oplays プロデュース『家庭内失踪』

定年を迎え悠々自適の生活の元教師の夫野村と年の離れた後妻雪子、そして婚家から出戻り中の先妻との間の娘かすみ。かすみの夫石塚は舞台に登場せず、代わりに彼からのメッセンジャーとして部下の若者多田が定期的にやってくる。実は多田は雪子に会いにきているのではないかと、かすみは疑いの目を向け...

テアトル・ド・アナール『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ構成の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“――およそ語り得ることについては明晰に語られ得る/しかし語りえぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語りえずただ示されるのみの事実にまつわる物語』

タイトルが長い! 何より哲学者、しかもその人生だけでなく哲学にもスポットライトをあてる演劇を作るという試みが素晴らしい。「およそ語り得ることについては明晰に語られ得る/しかし語りえぬことについて人は沈黙せねばならない」という彼の主著『論理哲学論考』の末尾のあまりにも有名な言葉。結構...

野田地図『逆鱗』

「人魚」についての物語。 野田秀樹が作り出す物語は、前半荒唐無稽ともいえる言葉遊びと比喩の奔流から、後半一転してシリアスなテーマが浮かび上がってくるという構造が共通している。前半軽快に浮いていた言葉が後半で繰り返されるときにはずしりと響くのだ。今回も、そうくるかという感じで、見事な...

岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』

プリミティヴで奇怪な面をつけた俳優5人がひとりずつ舞台にあらわれ全員揃ったところで、一斉に足を踏み鳴らし、面の裏からどこから出しているかわからない奇妙な音を発し民族音楽のセッションみたいになる。それが収まるとともに突然一人が朗々と語り始める。 ある島についての物語(isla というの...

ハイバイ『夫婦』

岩井秀人の自分史演劇化シリーズの最新作。今回は、理不尽な暴力で子供たちを押さえつけてきた父親の死が描かれる。電話で母から呼び出されて病院にいってみると父親は見る影なくやつれて死に瀕していた。彼は家族全員が揃ったその日のうちに亡くなる。その死の裏には医療ミスがあったんじゃないかと原...

リクウズルーム『アマルガム手帖+』

まったく予備知識なしでチラシに書かれていた「美しき数式戯曲エンターテインメント」という惹句を見て見にいくことにした。どの辺が数式かというと、戯曲の一部の役名やセリフが数式みたいな形式で書かれている。数学的に厳密な数式ではなく、数学記号に接続詞的な役割をもたせたなんか不思議な記法だ...

青年団リンク ホエイ『珈琲法要』

史実に基づいた物語。 19世紀初頭江戸幕府の封建鎖国体制が続く日本に対してロシアは開国を求めて度々南下してきていた。そこで幕府は弘前藩に命じて藩士、領民を動員して蝦夷地の警護に当たらせる。ロシアからの攻撃はまったくなかったが、寒さと栄養失調により彼らは次々と病に斃れてゆき、7割以上...

ナイロン100℃『消失』

11年前の初演を見ているし、キャストはその時とまるっきり同じだし、3年前に戯曲を読んだばかりだし、新鮮味を感じないんじゃないかと危惧していたが、ぼくの忘却力は思っていたより偉大だった。初演同様いやそれ以上に鮮烈な観劇体験だった。というのには、11年前より現在のほうが戦争やテロ、ま...

『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』

カントールって集合論の人かと思ったら違った。タデウシュ・カントール。ポーランド出身の前衛的な演出家、美術家で今年が生誕100周年だったらしい。日本では主に寺山修司によって紹介されたそうだ。今回は彼へのオマージュということで庭劇団ペニノのタニノクロウに委託して新たに作り出された(と...

城山羊の会『水仙の花』

城山羊が三鷹でやるときにはつい期待してしまうが、今回も劇場の名物担当者森元さんが出てきて拳銃で撃たれてくれた。 城山羊の会はどの作品にも多かれ少なかれ暴力の香りを感じる。前作はリミッターを外しきった感じだったが、今回は血のにおいを花のにおいの裏に隠して、スタイリッシュになっていた。...

『God Bless Baseball』

日韓合同作品。舞台上では日本語、韓国語、そして英語が飛び交い、それぞれの翻訳が表示される。 岡田利規は日韓関係は扱わないと決めていたそうだ。 野球のルールがわからないという若い女性二人に男性がルールを教えようとするがどうもうまく伝わらない。そういう彼も少年時代のトラウマで今は野球が嫌...

地点+空間現代『ミステリヤ・ブッフ』

どんな材料を使ってもみじん切りにして餃子になってしまうのが地点の芝居だ。今回はその餃子に生演奏がついている。 もともと地点の芝居は観念性はほとんどなくて、ほぼ身体性で構成されているのだけど、音楽が加わったことで、さらに際立った。途中、音楽的な興奮がとても高まる箇所があり、ちょっと感...

パリ市立劇場『犀』

パリのテロ直後のタイミングでパリ市立劇場の公演を見ることになるとは。突進してくる犀から逃げ惑う人々にテロの恐怖を感じずにはいられなかった。演出家はテロの影響で来日できなかったそうだ。 1960年にイオネスコが書いた作品。青年時代故郷のルーマニアでのファシズム勃興の記憶がベースになっ...

サンプル『離陸』

兄が弟に、妻と一緒に一晩過ごしてその夜起きたことを逐一漏らさず報告してほしいと依頼する。夏目漱石の『行人』から借りてきたシチュエーションだが、舞台は現代だし登場人物ひとりひとりの個性が際立っている。兄はもともとパフォーミングアーティストで今は大学で教えている。とても繊細で傷つきや...

カタルシツ『語る室』

イキウメ別館ということだが、ほぼほぼイキウメそのままの舞台だった。もちろんそれが悪いということは全くなくすごくよかったのだが、だったらイキウメでいいじゃないかと思ったのも事実だ。 ある地方都市で幼稚園児一人と送迎バスの運転手が跡形もなく失踪した事件から5年。関係者は平穏な日常を取り...

ヨーロッパ企画『遊星ブンボーグの接近』

SFっぽいタイトルでテーマは文房具というから筒井康隆の虚構船団的なものを想像していたら全然違った。 近くの遊星から地球に観光客にきている体長数センチの宇宙人ツアー客の一行。彼らが立ち寄ったのは平凡なOLが住む一室。テーブルの裏には彼らの身体くらいの大きさの文房具が置かれている。彼ら...

KERA・MAP『グッドバイ』

太宰最後の未完の小説をベースにウェルメイドなコメディーに仕上げた作品。戦後数年後の東京。編集である田島は、田舎に妻子をおいたままで、闇商売に関わって巨額の財をなし、十人近くの愛人と付き合っていた。そんな彼が、愛人と手を切り、妻子を田舎から呼び寄せようとする。そのための策略としてど...

チェルフィッチュ『女優の魂』

このテキストは小説として書かれたもので、それをそのまま上演しようと主演の佐々木幸子さんが言い出したことからこの企画がはじまったらしい。 長さ40分のひとり芝居。終始ある女優(といってもすぐ元女優だとわかるのだが)の独白という形で進行する。なぜ今は女優でなくなってしまったのかという理...

庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』

人里離れた辺境の湯治場に人形芝居をやる父と息子二人がやってくる。手紙で余興を依頼されたのだ。しかしそこは管理者のいない宿で、手紙を出した人も見あたらないのだった。帰りのバスもなくなり二人は仕方なく宿に一泊することにする。その宿にいるのは近所の村からきた湯治客のおたきさんという老女...

劇団野の上『東京アレルギー』

野の上ははじめてで、「の」の上だから「ね」かなとわけのわからないことを思っていたが、実はこの間みたホエイ『雲の脂』と作・演出の人が同じだった。野の上は津軽に本拠を置く劇団で俳優陣も津軽在住の人が多いそうだが、今回はオール東京キャストで限りなくホエイに近い気がする。ただ、舞台で話さ...