『ルーツ』

ルーツ

古細菌の研究者である小野寺は古細菌が生息するといわれる鉱山に赴くため鳴瀬という過疎の集落を訪ねる。鉱山は数十年前に鉱毒のため廃山となり、住民は差別にさらされひっそりと暮らしてきた。小野寺は最初拒絶されるが、徐々に村に溶け込み、古細菌研究は村発展のための希望とみなされる。しかし、小野寺はこの村の触れてはいけない謎に気がついてしまう。

といった感じで閉ざされた共同体の因習 VS 開かれた理性という典型的な骨格の物語なんだけど、本作を特徴づけているのは神ちゃまという存在だ。彼は村を統合するための不可視の象徴として機能しているのだ。もうひとり、物語の本筋ではないけど、外の世界から逃げてきた史江という身体は女性だけど心は男性という存在が魅力的だった。彼女と神ちゃまの会話シーンはすばらしい。

おそらく松井周本人が演出したらもっと変態的な舞台になったはずだが、今回はとても端正な舞台に仕上がっていた。ただその分村側の説得力が薄れて、ちょっと軽くなってしまったかもしれない。暗転を多用することでリズムが生まれて、3時間弱の長い芝居にもかかわらずだれるシーンがないのはよかった。

作:松井周、演出、美術:杉原邦生/神奈川芸術劇場大スタジオ/自由席4000円/2016-12-18 14:00/★★★

出演:金子岳憲、石田圭祐、内田淳子、成田亜佑美、洪雄大、南波圭、長谷川洋子、新名基浩、中山求一郎、猪股俊明、北川麗、能島瑞穂、山崎皓司、日高啓介、銀粉蝶