あまりにタイトル(ゴダールの『ベトナムから遠く離れて』のもじりだ)になじみがあって、観たことがあると勘違いしていた。内容をまったく思い出せないのもど忘れしているのだと思い込んでいた。実際は初演の蜷川幸雄演出版は観ていなかったわけだ。つまり今回の作者の岩松了本人演出版が初見。 もうひ...
初対面でお互いに自己紹介し合うというのは演劇でとても重宝され多用されるシチュエーションだ。この作品は唐突な自己紹介からはじまり、玉突き的に紹介が連鎖していくという、そのことをパロディー化したような構成になっている。 ミサオが公園のベンチで誰かを待っていると、突然増淵という見知らぬ男...
リンゴ農園そしてそのあとはじめた工場も失敗し、仕事がなくなりながらいくところがなく集まり続ける男たち。しかしとことん渋いリンゴを作るという夢は失っていなかった……。 強度が高い笑いからはじまるが、理不尽な出来事が連鎖して暴力がエスカレートしていきにっちもっさちもいかず破滅にむけてひ...
男が女に交際を断られる。それでも男はめげずに友人関係を続けるが、女は動物園で檻の中の獣パイオンに運命的な恋をしてしまう。女は檻の中に入り込み、パイオンを人間にしようとする……。 人間と動物の違いは何なのかという問に対するひとつの回答。動物は血統というくびきから逃れられないが人間は場...
タイトルはドイツの哲学者カントの臨終の言葉から。彼の「あなたの意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当しうるように行為せよ」という有名な言葉が何度か引用されるが、決して上滑りしたり浮ついたりすることはない。2011年3月の震災を軸に東京で暮らすふつうの若者たちの日常と地...
タイトルはハクスリーの『すばらしい新世界』のパロディーだが、ここでいう「新世界」は大阪の下町の新世界だ。新世界のさらにはずれにある大阪のおっさんたちが集う串揚げ屋が舞台。なにわの人情喜劇に転進かと思ったが、ちゃんといつものヨーロッパ企画だった。「新世界」にはダブルミーニングがかか...
ちょっと考えると奇妙なタイトルだ。「未来のように笑う」。でも未来は笑わないし、そもそも未来が笑うというのはどういうことなのかわからない。この作品の中で子供たちは未来そのもの、つまりいい面も悪い面も不確定で未知なものとして扱われている。ある意味「無」そのものだ。無だからこそ、論理学...
『雲の脂』、『珈琲法要』ときてホエイをみるのは3作目だが、今回が一番おもしろかった。 太平洋戦争の戦況が厳しさを増す1944年、北海道の麦畑が広がる平野に突然火山が隆起した史実(当初はその事実は機密とされ、のちに昭和新山と呼ばれる)に題材をとった作品だ。見る前は、話題の映画シン・ゴ...
休憩2回挟んで4時間の長尺。舞台の上でとりたてて何かがおきるわけではないのに、飽きることはまったくなかった。 戯曲の冒頭に「時…現代」と書いてあるが、その現代というのは1940年。太平洋戦争がはじまる前年だが、すでに日中戦争は泥沼に入り、物資も不足するようになっていた。主人公の画家...
平田オリザ8年ぶりの新作書き下ろしとのこと。前作『眠れない夜なんてない』が沈みゆく日本から逃げ出した人を描いていたとすれば、本作は残った人々を描いた作品といえる。 舞台は現代日本の地方都市。そこで困難に直面した住民の相談窓口となって一次対応をおこなうサポートセンターの人々を描く。指...
キュイダブルヘッダー2作目。もともとひとり芝居として書かれた戯曲を3人の俳優に割り振ったそうだ。あるときからまったく眠れなくなってしまった女性。実はそれはセックスで感染する性病だった。それに気づいた同僚によって彼女は不眠を社会に広げていくためのキャリアとして利用される……。という...
キュイダブルヘッダーの1本目。まったく前提知識なしにはじめてのキュイだったのだが思ったよりずっと楽しめた。若い世代のつくる演劇は情感ドリブンのものが多い気がしていたけど、綾門優季の戯曲は言葉の放つパワーが生半可でない。そのパワーの強烈さ故に上滑りしかねない戯曲を適切にサンプリング...
かなり間があいて3度目のシベ少。黒服の登場人物たちによってある犯罪グループのノワールみたいな物語が展開する。なぜかそれぞれカードを持っていて、なにか話すごとに一枚ずつテーブルの上に置いていくのでわけもわからずにやついてしまう。その理由は前半の最後の方で判明してそれを受けての怒濤の...
前作『海底で履く靴には紐が無い』から1年が経過していることに驚かされた。ほぼ大谷能生さんのひとり芝居だった前作とはことなって今回は集団劇。オーディションで選ばれた若い俳優たちが出演している。 夫がリストラで主夫になり妻がスーパーに働きに出た夫婦を大谷能生、松村翔子の常連が演じ、その...
人類が2つの種キュリオとノクスに分かれた近未来。キュリオというのは今のぼくたちと同じ不完全な種族だが、ノクスはより頑健で自己統制がきき老化もしない。ただし、一つだけ大きな弱点があって、太陽の光を浴びると致死的なダメージを受けるのだ。キュリオがノクスになる方法は存在するが、なぜかそ...
ロロの読み方もはっきりしないまま(クチクチやシカクシカクの可能性を排除できなかった)初観劇。同じ姓の三浦大輔との連想からワイルドでドロドロした芝居を想像したり、タイトルから喪失感あふれる恋愛ものを想像したりしていたが、どちらも全く的外れでいい意味で裏切られた。 一言でいえばメルヒェ...
アメリカで2007年に初演され高い評価を勝ち得た戯曲。メリル・ストリープとジュリー・ロバーツ主演で映画化もされている。 オクラホマ州オーセージ郡、大草原の片隅で二人だけで暮らす夫婦。夫ベヴァリーは元詩人で現アル中。妻ヴァイオレットはガンの闘病中で薬物の過剰摂取。うだるような8月、住...
初めてのナカゴー。最初洋食屋を舞台にした人情ものかと思うが、いい意味で期待が裏切られ、まさかのホラー展開。しかもよくできた落語のオチみたいに怒涛のハッピーエンド?になだれ込んだ。 文字通りのモンスター採用希望者を演じた菊池明明さんも鬼気迫っていたし、荒唐無稽のかなたに落ちてしまいそ...
演劇活動開始当初より「青年団の山内健司さんとは別人の」と名乗り続けてきた城山羊の会の山内ケンジ(本名は山内健司)が満を持してその青年団の山内健司とタッグを組む。主演は山内健司、その他の俳優陣も全員青年団だ。 主人公は排ガス不正が発覚した某ドイツ系自動車のディーラーに勤める中年男性。...
ぼくは初演から4年後の1998年に戯曲の作者の平田オリザ自身の演出で見ている(そのあと2007年にも見ている)。その時はヨーロッパの戦争で有名な絵画が避難してきていて日本も戦争に巻き込まれそうになって徴兵の話まで囁かれているという状況が絵空事に感じられたものだけど、今や数年後のシ...