『ピローマン』

とある独裁国家の警察の取調室が舞台。売れないショートストーリーを書きためているカトゥリアンはトゥポルスキ、アリエルという二人の刑事の取り調べを受けている。最初カフカ『審判』のような不条理な告発かと思うが、カトゥリアンの書く陰惨な物語をまねた子どもの連続殺人事件が起きていることがわかり、別室でカトゥリアンの兄ミハエルも取調べされており兄弟二人でやったと自供したと聞かさせる。カトゥリアンは物語の執筆を促されつつ、兄の存在を知らないまま毎夜拷問されている声を聞かされる。それで生み出される陰惨な物語が両親の実験の成果なのだった。そのことに気づいたカトゥリアンは14歳の時に両親を殺害したのだった。ミハエルは虐待が理由で知的機能に遅滞がある。 ...

劇壇ガルバ『ミネムラさん』

峯村リエさんは、これまで何回も舞台を見てきて大好きな俳優さんだけど、タイトルになっているとは、どういうこと?という感じだったが、思いがけずいい舞台だった。 ...

イキウメ『小泉八雲から聞いた話 奇ッ怪』

次の小泉八雲の怪談5篇が百物語的に舞台上で物語られる。 常識 破られた約束 茶碗の中 お貞の話 宿世の恋 『宿世の恋』は『牡丹灯籠』の再話だがそれ以外は耳馴染みがなかった。個人的には『茶碗の中』がシュールでおもしろかった。 ...

ナイロン100℃『江戸時代の思い出』

ナイロン30周年記念公演の第2弾とのことで実際31年周年だがそこがナイロンらしい。自分がそのうち25年間みてきたことにびっくりだ。 江戸時代の峠の茶屋みたいなところで二人の男がすれちがい、そのうちのひとり町人の風体の武士之介が武士の風体の人良に自分の思い出話を無理やり聞かせようとする。最初に語られるのはなぜか未来と思しき思い出で、現代の服装をした男女4人がタイムカプセルを掘り返そうとしている。しかしタイムカプセルは見つからず人間の手足や脳みそが掘り出される……。というのが第一部で、第二部は江戸時代に戻って疫病と飢饉の時代の思い出、休憩を挟んで第3部は、頭の部分が臀部のケツ侍があらわれ最後はバッドエンドと思いきや第4部で唐突にあらわれた救世主がみんなを蘇らせまさにデウス・エクス・マキナだった。 ...

チェルフィッチュ×金氏徹平「消しゴム山」

2018年に陸前高田で進む震災からの復興工事を目撃した経験に触発されて、「人とモノが主従関係ではなく、限りなくフラットな関係性で存在するような世界を演劇によって構築できるのだろうか?」という問題提起から生まれた作品。舞台に配置されたさまざまなモノは美術家の金氏徹平さんによるもの。俳優たちは舞台上で即興でそれらのモノと戯れる。 ...

青年団『S高原から』

5月で閉館するこまばアゴラ劇場のサヨナラ公演と銘うたれた公演のひとつ。これはいかねばなるまい。アゴラでみる49個目の公演だ。 『S高原から』をみるのはなんと25年ぶり。高原のサナトリウムが舞台という以外ほとんどなにも覚えてなかった。25年前はまだ下敷きとなったトーマス・マン『魔の山』は未読だったのでわからなかったことが今では見える気がする。サナトリウムに暮らす若者たちは不幸な病人というわけじゃなく、相当に恵まれた境遇にある。ここでは、死すら一方的に厭うべきものではなく、痛みがなく穏やかで眠りに近いものなのだ。 ...

ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』

演劇の世界では、待つ対象はゴドーのはずだが、ゴドーはもう歩くAIアシスタントとしてここにいる。戦火から逃れ移民としてこの国にやってきた美容外科医が待っているのは船だ。 一日は無為に過ぎていき船は来ない。そこに上の神社から貧しい現地民エイが流されてくる。彼らは最初反目するがエイの兄が自死したエピソードをきっかけに和睦する。船は来ない。唐突にゴドーも去っていく。 ...

テアトロコントspecial『寸劇の館』

今年初の観劇。昨年に続いて今年もブルー&スカイ作品からのスタートだ。『寸劇の館』というタイトルからわかるように実質寸劇4編のコントライブなのだが、それを、理不尽な理由で処刑されてしまいそうな息子の命を救うため森に探索に行った母親が「寸劇の館」という館に迷い込み寸劇を見せられるという荒唐無稽なストーリーでラッピングしてる。古典の枠物語の構造だ。 ...

城山羊の会『萎れた花の弁明』

城山羊の会の三鷹公演では劇場支配人の森元隆樹さんの前説が通例になっている。今回の舞台は劇場の前になっていて、前説からなめらかに物語がつながっていく。見知らぬ中年男が森元さんのまえにあらわれて唐突に性欲について質問する。新入職員の佐藤が呼ばれて彼の相手をする。基本的にはこの佐藤くんの家族を中心とした決して上品とはいえない性の話だ。そこにほかのひとにみえたりみえなかったりするイエス(三つの異なる姿で登頂するのは三位一体ということ?)と偽牧師が絡み、衝撃(笑)のラストになだれ込んでいく。 ...

劇壇ガルバ『砂の国の遠い声』

昨年惜しくも亡くなった宮沢章夫の1994年初演の作品の再演。演出は彼の作品を俳優や制作として近くで見てきた笠木泉さんが担当している。 砂漠監視隊というただ砂漠を監視する組織に派遣された7人の男たち。誰もが、あまりにも手持ち無沙汰で、割り当てられた作業を他人に渡すまいとしている。隊員のひとりが砂漠から声が聞こえると言い出しやがて行方不明になる。彼は一週間後に戻ってきたがいなくなっていた間のことを何も覚えていないという。次に別のメンバーも声が聞こえると言い、彼もまた書き置きを残して消える・・・・・・。 ...

阿佐ヶ谷スパイダース『ジャイアンツ』

初老男性が夢の中みたいにぼんやり歩いていると、離婚して依頼疎遠になっていた息子と出会う。息子はぎこちない感じながら自宅に誘い、ささやかな歓待を受ける。翌日ワインとケーキをもって同じ部屋を訪ねると、そこには別の人が住んでいた。男は、不意にあらわれた目玉探偵と名乗る男とその助手とともに息子の行方を捜そうとする。彼らによれば、誰かの回想、いや傾倒の世界に入ってしまったのだという。空には巨大な目玉が浮かび、時間と空間がゆがみはじめる。 ...

『無駄な抵抗』

主催は劇場だが脚本、演出、出演者、イキウメづくしのほぼイキウメ作品。 あるときからまったく理由の説明がなく列車が通過するようになってしまった駅の前の広場が舞台。元テレビの占いコーナー担当者で今はカウンセラーをしているサクラは依頼者の山鳥メイと会うが彼女は小学生の時の同級生だった。メイはサクラに教室であなたは、人を殺すという予言をされ、その予言を成就させないためこれまで人と深くかからわないように注意を払って生きてきたと告白するが、サクラはまったくそのことを覚えてなかった。 ...

青年団リンク キュイ『非常に様々な健康の事情』

三篇から構成される短編集。 冒頭の『非常に様々な健康の事情』は現時点での最新作。3人の元同級生の女性がカフェでかわるがわるそれぞれの不健康な状況について語り合う。彼氏のDV、上司のハラスメント、親族の迷惑な干渉など一見バラバラなことについて語っているようにみえるが・・・・・・。綾門さん自らの演出というのもめずらしいが、詩的で会話をしていてもモノローグに思えてしまう観念的なセリフではなく女性たちの等身大のセリフが飛び交い、エンターテインメントとして十分成立していたことだ。 ...

ヨーロッパ企画『切り裂かないけど攫いはするジャック』

劇団結成25周年とのこと。今回はSFではなくミステリー。19世紀末のロンドンを舞台に、同じ街角で乞食の老人、ミルク売り、花売り娘など次々と人が消え失せる謎の連続失踪事件が発生する。周囲の人びとや刑事や探偵が侃侃諤諤で推理し謎を解いていく……と思いきや、謎が解かれたと思った瞬間に新たな真実が明らかになっていき最後はいつものSF展開だ。 ...

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アメリカの時計』

『アメリカの時計』はアーサー・ミラーの後期に書かれたあまり知名度の高くない作品だ。エンタメに振り切った改訂版は興行的に成功したようだが、この舞台は改訂前のバージョンがベースになっている。舞台は大恐慌時代のアメリカ。大恐慌は名前だけであまりよくわかっていなかったのだけど、今回ちゃんと知れたのは収穫のひとつだ。1929年の株価大暴落にははじまり、GDPが恐慌前の水準に一時的に回復したのはなんと1936年で最終的には第二次大戦による軍需をまたなくてはいけなかった。 ...

コンプソンズ『愛について語るときは静かにしてくれ』

SNSでみかけて急遽みることにした。聞き覚えのある劇団だと思ったのは道理で、2度目のコンプソンズだった。 これぞ小劇場というテンション高めのノリと演出は相変わらず不慣れで、加えて今回気づいたのはこれが演劇であることへの自己言及的なセリフの多さだ。しかし、そういう個人的な違和感とは違うところに連れていってくれる作品だった。 ...

スヌーヌー『長い時間のはじまり』

タイトルに「はじまり」とあるがむしろ終わりからみた物語だ。 舞台は前作『モスクワの海』から引き続いて多摩川西岸の町登戸。ぼくはみてないがその前の作品も登戸が舞台で登戸三部作らしい。 ...

野田地図『兎、波を走る』

まったく予備知識なしにみた。不思議な国のアリス、ピーターパン、桜の園などさまざまなシーンの間を言葉遊びで行き来してがどこに行き着くのか不安に思う瞬間もあったが、ちゃんとすべての言葉がつながって着地した。お見事。 ...

M&Oplaysプロデュース『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』

舞台は銀座。かつて海でいまもカモメの菅がかいま見え、風向きによっては潮の香りがする場所。とある兄妹を主軸とする物語。彼らの家庭を崩壊させた父のかつての愛人葉子と兄アキオはいま親しい関係にある。兄に弁当を届けに来た妹イズミはそれを知る。というベースラインの物語は、銀座で暮らす若年浮浪者二人組のうちひとりとみが考えた創作だった。ところが、創作の登場人物たちが現実化し、創作をしたとみたちの姿が希薄化していく。 ...

イキウメ『人魂を届けに』

森の最奥の家が舞台。そこの主人山鳥は、森で迷ってる人たちを救って自分の家に住まわせており。彼らからママと呼ばれ共同生活を送っていた。そこに八雲という刑務官が奇妙な届け物をもってたずねてくる。届け物はかつてその家に住み街に戻ってからテロを起こし処刑された男からでてきた黒い物体だ。それはまわりの人の心に語りかけてきて人魂としかいいようがないものだった。処刑された人以外にも街に戻ってからテロ的な行為をする人たちがいて、疑念を持った公安警察もやってくる・・・・・・。 ...