『労働者M』

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアターコクーン/コクーンシート5000円/2006-02-13 19:00/★★

出演:堤真一、小泉今日子、松尾スズキ、秋山菜津子、犬山イヌコ、田中哲司、明星真由美、貫地谷しほり、池田鉄洋、今奈良孝行、篠塚祥司、山崎一

今年はじめての芝居。芝居がどんなものだったかもう忘れそうになっていた。

思わず垂涎もののキャストだが、月曜日と日が悪いし、座席もコクーンシートで斜め上方から見下ろす形になり見切れる可能性がある(その分値段は安い)。さらに初日一週間前に台本が半分しかできていないなんて噂を耳にしたものだから、どうなることかと思ったが、ふたをあけてみればかなり楽しめた。

二つの物語が交互に展開する。

一つめははタイトル通りのストーリー。近未来とおぼしき過酷な世界にさらに土星人との戦争が起こり、破壊と荒廃が世界中を覆う。地球人類ははどうにか勝利をおさめるが、残ったのは過酷な労働と引き換えに名ばかりの食事と住居を提供する自主的な収容所だけだった。「市民運動」(というよりもっと過激な活動)のリーダーゼリグは、その収容所を破壊するために潜入するが、そこでかつて自分を活動に引き入れた女性と出会う。

もうひとつは、命の電話にかけてきた人に自殺を思いとどまらせると同時にねずみ講システムで高価な品物を購入させるという、人の役に立っているんだか、食い物にしているのかよくわからない会社が舞台(すべての職業は多かれ少なかれ両方の側面をもっているものだが)。そこで働く人たちはもともと命の電話にかけてきた人ばかりだ。何気ない日常の中に、ブラックで乾いた笑いと、所長は行方不明、所員の一人が最近自殺、という重い状況がはさみこまれる。『労働者M』に無理に結びつけるとすれば、現代のある特定の労働に従事する人たちの姿を描いていることと、登場人物の姓のイニシャルがMということだろうか。ちょっと無理矢理だ。

ふつう二つの物語が並行して進む場合、登場人物やエピソードに関連性があるか、最後に関連があることが明らかになるが、今回は舞台の上の役者、時間、空間を共有するだけでまったく交わらないままそれぞれ終わる。ある意味新機軸だが、第一のストーリーだけで物語を完結できなくなった苦心の果ての形というにおいが強く感じられもする。

とはいえ、休憩15分をはさんで3時間10分の長尺で途中ほとんどだれるシーンがなかったというのも希有なことで、ある意味その苦心は報われたのかもしれない。