『世界は笑う』

世界は笑う

ナンセンスコメディーかと思ったが、違った。建てつけとしては、まだ戦争の傷跡が残る昭和30年代前半を舞台に喜劇一座の盛衰を描いた、わりとシリアスなコメディーだ。若手役者のあれやこれやは新しい笑いを生み出そうと台本を書き座長に上演許可をもらうが、自らの演技によりクオリティが落ちることを恐れ、直前に出演を拒否する。

前半はあらたな笑いの誕生という明るいトーンで終わるが、休憩後の後半は、うってかわって早々にその破綻が明らかになる。結局は、中身がない、言い方や顔で笑いをとるタイプの古いタイプの笑いが人気を集めてしまうのだ。ひょっとするとそこにはケラさん自身の忸怩たる思い、あるいはその中で生き残ってきたという自負心が反映されているのかもしれない。

結果としては今までにない味わいを残す作品になったのは間違いない。この味わいの複雑さには価値があると思う。あと、劇の他の部分と切り離されているのが玉に瑕ではあるが、あれやこれやの陥る狂気のシーンは本気で怖くて、ということはつまり素晴らしかった。もしこのシーンが有機的に劇の内容と結びついていたら個人的な評価ははねあがっただろう。

とった席が見切れ席で、まあそれはあえての選択ではあったのだが、それにしてもという感じで、だいたい4割くらい見切れていた。音声や、直後の人の動きと想像力でほぼ内容は把握できたが(道案内のシーンはだめだった)、劇場を設計した人に文句のひとつも言いたくなるレベルではあったと思う。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアターコクーン/コクーンシート5500円/2022-08-20 18:30/★★

出演:瀬戸康史、千葉雄大、勝地涼、伊藤沙莉、大倉孝二、緒川たまき、山内圭哉、マギー、伊勢志摩、廣川三憲、神谷圭介、犬山イヌコ、温水洋一、山西惇、ラサール石井、銀粉蝶、松雪泰子