KERA・MAP『キネマと恋人』

キネマと恋人

ウディ・アレン『カイロの紫のバラ』の飜案。舞台は1930年代の日本の梟島という架空の離島に移しかえられているが、基本的なストーリー展開は同じ。恵まれない人妻が毎日のように映画館で買い詰めるうち、贔屓の俳優が演じるキャラクターがスクリーンの向こうからこちらに声をかけてくるというファンタジー。

ウディ・アレンがかつての妻ミア・ファローのために『カイロの紫のバラ』を作ったのと同じく、ケラさんが妻緒川たまきを主演にすえてこの作品を作ったという一致が興味深い。この作品の緒川たまきは今まで見た中で一番の当たり役だと思う。架空の方言もいい。そして、妻夫木聡もよかった。

甘いファンタジーには苦味が必要だ。どれだけの苦味を用意できたかで作品の真価が決まる。最後のシーンは一人だけの方がより苦味が際だった気がするが、それ以外は上質なエンターテインメントとして文句のつけようがない。

初演はチケットが取れなかったので、今回が初見。3回席だったが、オペラグラスを持っていったので、表情までちゃんと見ることができた。これから大きい劇場では常備しよう。

台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/世田谷パブリックシアター/2019-06-22 18:00/★★★

出演:妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえ、三上市朗、佐藤誓、橋本淳、尾方宣久、廣川三憲、村岡希美、崎山莉奈、王下貴司、仁科幸、北川結、片山敦郎