スヌーヌー『モスクワの海』

モスクワの海

笠木泉さんの関わった作品はこれまで割とみてきたつもりだけど新しいユニットを立ち上げて作・演出をしていることについ最近気がついた。出演している人たちもなつかしい顔ぶれだ。特に松竹生さんを舞台でみるのは16年ぶりで、いい歳のとり方をされていることに安心しつつも、特にコロナ以降ひどくなった時間の遠近感の歪みのなかで、この間の年月がどこにいってしまったのか、まずはうまく説明できない喪失感を感じるところからはじまったのだった。それは個人的なものだが劇の内容とどこかオーバーラップするものだった。

舞台は東京と多摩川をはさんだ向こう側、多摩水道橋の近くというから、明確に名指しはされないものの、登戸近辺だ。あとで三角形の公園もちゃんと地図で見つけた。自宅の庭で転んで起き上がれなくなった老女を発見した通りすがりの女性が結局タクシーを呼ぶために走るまでの10分の出来事が拡大される。はさみこまれるのは引きこもりだった老女の息子の物語だ。彼は今行方がしれないようだが、老女には彼の姿が見え会話をすることができる。彼は思い立って新宿に面接に出かけようとしたが発作に襲われてたどり着けず、多摩水道橋の上である出会いをしたのだった・・・・・・

宮沢章夫さんがはじめたスタイルを正統的に後継するとともに、古川日出男作品的な世界を描いた作品だった。登場人物が同時に自分以外の物語の語り手をつとめる手法がいい。役者もみんなよかった。特に高木珠里さんの言われるまで老女を感じさせないかわいらしさを表現した演技がよかった。

ところでタイトルの「モスクワの海」とはロシアのモスクワの海のことではなく(そもそもモスクワは内陸都市だ)、月の裏側にある(当然水のない)「海」のことのようだ。

作・演出:笠木泉/象の鼻テラス/自由席2800円/2022-07-02 19:00/★★★

出演:松竹生、高木珠里、踊り子あり