M&Oplaysプロデュース『水の戯れ』

水の戯れ

16年前の初演は高熱をだしながらみた。芝居の内容はたいていしばらくたつと忘れてしまうのだが、この作品はまだ鮮明に覚えている。

(岩松了以外の)キャスト総入れ替えでどうかなと思っていたが、実際のところ初演よりはまっていた気がする。主役の仕立屋の男春樹を演じた光石研さんは完璧だったし、その兄大造の中国人恋人林鈴役の瑛蓮さんのコメディアンヌぶりも際立っていた。そして大造役は、初演の串田和美さんとは違って軽いと思っていた池田成志さんが実に見事にこの役にはまっていたのに驚いた。実は軽さが身上の役だったのだ。ただ、ひとつ難点をあげるなら光石さんと妻(自殺した春樹の弟の妻だった)明子役の菊池亜希子さんが並ぶと親子のようにみえてしまうことで、これはまあいたしかたない。

二度目なので細部に注意を払うことができた。春樹が仕立てに失敗することが次明子に会うときの笑い話になるのでうれしいと告白するシーン、そして林鈴が菜摘という若い女に不意にキスをして、誰にも言っちゃだめよ、そしてあなたはこのことを一生忘れないねと言うシーンとか、息を呑むほどすばらしかった。

あと、前回よくわからないままだった明子という女性に注目してみることができた。春樹という男の嫉妬深さ(その嫉妬は十分理由のある正当なものなのだが)と小うるささ(それらは自殺した彼の弟にも共通する)を内心憎んでいる。だから、他の男性と戯れたり、そのことをわざと大げさに告げて、彼らの小さな心をいたぶることにより嗜虐的な喜びを感じている。同時に罪悪感もあって、そのはざまで揺れ動く、彼女はそんな人間なのだ。初演で演じた樋口可南子さんの強さにはまわりの男性のみならず菜摘をもひきつける説得力があったが、今回の菊池亜希子さんの受動的な弱々しさも、自分自身の感情に翻弄されているリアリティを感じた、そこにはまだ二人の関係に少しの希望が残るだけにラストシーンの偶発的な惨劇を一層痛みをもって受けとめたのだった。

作・演出:岩松了/神奈川芸術劇場大スタジオ/指定席5500円/2014-11-29 18:00/★★★★

出演:光石研、菊池亜希子、近藤公園、瑛蓮、根本宗子、岩松了、池田成志