シス・カンパニー『ワーニャ伯父さん』

ワーニャ伯父さん

チェーホフの四大戯曲のうちの三番目。テレビで舞台映像をみたり、戯曲を読んではいたが、直接舞台をみるのは初めてだ。

悲劇ではなくむしろ喜劇なんだけど、主要な登場人物はほぼ例外なく絶望する。これほど絶望濃度が高い芝居もめずらしいのではないか。特にワーニャは、自分を含めて家族全員で献身してきた教授(ワーニャの亡き妹の夫にあたる)が退職とともに実は何の価値もなかったということに気がついてしまい、それによって自分の若い日の可能性が費やされてしまったことを深く嘆いていて、それは教授への怒りという形をとっている。この状況に煽りをかけているのが教授の若い後妻エレーナの存在だ。彼女の美貌にひきつけられて周囲の人間は働く意欲をなくし、希望と絶望がかき混ぜられる。今回みてわかったがエレーナ(宮沢りえが演じている)はけっこう内面をもった人間として描かれている。彼女もまた絶望に苛まれているのだ。

『三人姉妹』と同様100年後、200年後の未来に対する言及がこの作品の中にもある。その頃の人間はわれわれの惨めな人生を軽蔑するだろうというようなことをいっている。だが、この戯曲が書かれてから100年以上経過している極東の島国でもまさにここに書かれているようなあるいはそれ以上の絶望に覆い尽くされている。この話の中ではキリスト教的救済が最後に語られるけど、信仰をもたない人間はこういういい芝居でもみて絶望をやり過ごすほかない。

作:アントン・チェーホフ、上演台本、演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/新国立劇場小劇場/S席8500円/2017-09-23 18:30/★★★

出演:段田安則、宮沢りえ、黒木華、山崎一、横田栄司、水野あや、遠山俊也、立石涼子、小野武彦、伏見蛍(ギター演奏)