青年団リンク ホエイ『珈琲法要』
史実に基づいた物語。
19世紀初頭江戸幕府の封建鎖国体制が続く日本に対してロシアは開国を求めて度々南下してきていた。そこで幕府は弘前藩に命じて藩士、領民を動員して蝦夷地の警護に当たらせる。ロシアからの攻撃はまったくなかったが、寒さと栄養失調により彼らは次々と病に斃れてゆき、7割以上が死ぬ大惨事になった。
藩士の斉藤文吉、彼の同僚の忠助、彼らの世話をするアイヌ女性弁慶の三人が登場人物のコンパクトな芝居だ。仲間はどんどん死んでゆくが、それは名前の読み上げ、そして弁慶があげる奇声(アフタートークで説明されてわかった)で表現される。文吉と忠助のユーモラスな掛け合いが前面に出てくるので、深刻さはあまり感じない。タイトルに出てくる珈琲は幕府が病気に苦しむ彼らに与えるというエピソードから取られていて、幕府のいきあたりばったりでちぐはぐな対策の象徴だ。とてもおもしろいシーンだった。
この惨劇は一切の口外、公表が禁じられ歴史の闇に葬られていたが、文吉はその様子を手記に残していて、つい最近手記が古書店で発見されたことから公になった。人命の軽視と都合の悪いことを秘密にすることはこの国の伝統かとも思えてくる。
弁慶を通して描かれるアイヌと和人との関わりがもう一つのテーマだ。津軽という辺境の彼らが和人の代表みたいな顔をするのがおもしろい。ただそれほど深く掘り下げられているわけでないので、クライマックスで彼女が抱く怒りや恨みが唐突なものに思えてしまった。
忠助は終始死亡フラグ立ちまくりで舞台上で殺されかけさえするのだが、最後まで死なないのがいい。
作・演出:山田百次(プロデュース:河村竜也)/こまばアゴラ劇場/自由席3000円/2016-01-01 15:00/★★
出演:河村竜也、山田百次、菊池佳南