劇団野の上『東京アレルギー』

東京アレルギー

野の上ははじめてで、「の」の上だから「ね」かなとわけのわからないことを思っていたが、実はこの間みたホエイ『雲の脂』と作・演出の人が同じだった。野の上は津軽に本拠を置く劇団で俳優陣も津軽在住の人が多いそうだが、今回はオール東京キャストで限りなくホエイに近い気がする。ただ、舞台で話される言葉の8割以上が津軽弁であることが違いといえば違いなのかもしれない。

観音寺まりあというありがたい名前をもつ女性が目の前で恋人を事故で失ったショックやその後の中傷などにたえきれず単身東京にでて働こうとするが、長く続けられず、故郷に帰っても居場所はなく、宗教的な救いも得られない……。

ちょうどアフタートークのゲストが猫のホテルの千葉雅子さんだったが、そういえば一時期の猫のホテルには女の半生記が多くて、今回の作品もストーリーの骨格は似ている。ただ猫のホテルの女たちは現実の世界でたくましくのし上がっていったが、こちらの世界のマリアは自分の内面に閉じこもって居場所をなくす。若干青臭さも感じられる観念的な展開だ。

演劇に限らず今の表現は日常性の中に退行していて、今やこういう観念性は希少な気がする。まりあが救済を求めて彷徨する流れはサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を彷彿とさせるが、あの作品同様安易な救済は退けられている。強いていうならラストのフォークダンスのシーンが救済といえば救済で、ちょっと心を動かされた。

今回は山田百次さんも出演していたのだけど、イケメンで驚いた。しかも飄々としていてユーモラスで、作品世界とのギャップに驚く。いや、作品も表面的にはけっこう笑えて楽しいので、ギャップはないのかもしれないが。その笑いの部分で青年団の堀夏子さんが大活躍だった。最近こういう平田作品以外の準客演でのはっちゃけぶりが目について楽しい。

作・演出:山田百次/こまばアゴラ劇場/自由席2800円/2015-08-15 17:00/★★

出演:成田沙織、堀夏子、和田華子、仲坪由紀子、松本哲也、斉藤祐一、中田麦平、山田百次、赤刎千久子、山村崇子