高橋昌一郎『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』

ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)

ゲーデルといえば、「不完全性定理」。本書もその例にもれず、はじめに、アナロジーやパズルを使って、不完全性定理を解説している。だが、この部分は同じ講談社新書の野矢茂樹『無限論の教室』の方が深くつっこんでいてしかもわかりやすいと思う。

本書の主眼はそこにはなく、ゲーデルの波瀾万丈の人生に触れつつ(チェコに生まれオーストリアに移り、ナチスの台頭をさけてアメリカに移住。7歳年上の踊り子と結婚。晩年は毒殺を恐れて食事に手をつけず栄養失調状態になった)、彼がはぐくんだ独特の哲学に光をあてている。

ゲーデルは不完全性定理の哲学的な帰結を、次のいずれかまたは両方と考えていたようだ。

  • 人間精神は、脳の機能に還元できない。(反機械論)
  • 数学的対象は、人間精神から独立して存在する、(数学的実在論)

本書ではどちらかというと前者に重きをおいて論じられているけど、ゲーデルが強調したかったのは後者のように思う。ゲーデルに限らず数学者が「発明」ではなく「発見」という言葉を使うのは多かれ少なかれ実在性を信じているからだろう。

ゲーデルの哲学のもうひとつのトピックが何度か試みていたとされる神の存在論的証明だ。最終的に形になったのは晩年の1970年という日付のものだ。ただし、生前は公開されず、死後にあきらかになっている。それは神を「すべての肯定的な性質をもったもの」と定義して、古典論理に、「必然」と「可能」という二つの様相を追加した様相論理という体系で証明されている。

歳をとって宗教に走ったなどと考えるのは間違いで、純粋に知的な好奇心から、何度かの試行錯誤を経て、作り上げたものだと思う。本書の解説ではよくわからなかったので、ネットで検索してみつけたKurt Gödel’s Ontological Argumentというページで、なんとなく理解できた。様相論理を使って哲学的な考察が可能だという一例になっていると思う。

全体的につっこみが足りないので★★。