稲葉振一郎『不平等との闘い ルソーからピケティまで』ebook

不平等との闘い ルソーからピケティまで ((文春新書))

タイトルをみて、そういえばピケティブームあっという間に過ぎさってしまったな、という感慨に打たれたが、『21世紀の資本』の邦訳出版が2014年末で、もうそれからそれなりに年月が経過しているのだった。時の流れが速すぎる。

『不平等との闘い』というタイトルには煽りが入っているやも。中身はいたって穏当、大人しすぎるといってもいいくらいだ。不平等をめぐる言説がルソーから語り起こされているが、ルソー以降はアダム・スミスを筆頭にほぼ経済学のどちらかといえばテクニカルな学説の紹介が続いていく。哲学者ロールズの名前は登場するものの、深くは掘り下げられない。不平等、格差にまとをしぼってはいるものの、ちょっとした経済学史という趣だった。マルクス主義にも触れつつ、古典派から新古典派への主流派経済学の流れをおさえる。それにともなって不平等、格差への経済学者の関心は低下していく。

後半になってようやくピケティの主張がこの流れの中に位置づける形で紹介される。それによってピケティが『21世紀の資本』の中で何を主張して何を主張してないかをはっきり示してくれている。20世紀終わりになって経済学者たちは再び先進国内部での格差問題に目を向けるようになる。彼らは主に労働所得、人的資本の差異に注目したが、ピケティは資本所得、物的資本の差異に注目して、実データから格差が広がりつつあることを実証した。ピケティはもともと理論家だったのだけど、実証研究に転身して生まれたのが『21世紀の資本』とのこと。

経済学の考え方の勉強になった気がする。