木島泰三『自由意志の向こう側 決定論をめぐる哲学史』

まずは目次から。 はじめに 第一章 自然に目的はあるのか——西洋における目的論的自然観の盛衰と決定論 第二章 決定論と運命論——ストア派・スピノザ・九鬼周造 第三章 近代以前の自由意志論争とその影響——ホッブズとデカルト 第四章 目的論的自然観は生きのびる——ライプニッツとニュートン 第五章 ダーウィ...

スティーブン・ピンカー(橘明美、坂田雪子訳)『21世紀の啓蒙』

コロナで先の見通しがたたないなか前向きな本が読みたくなった。 「わたしたちは理性と共感によって人類の繁栄を促すことができる」。あたりまえで、ありふれた言葉に思えてしまうが、これこそが啓蒙主義の原則だ。理性は、もうひとつの人間の本性である、「部族への忠誠、権力への服従、呪術的思考、不...

木田元『反哲学入門』

『反哲学入門』と題されているが、語りおろしということもあり、とても易しく哲学史の見取り図が学べる本。いろいろ哲学書を読み散らかしてきたがまずこの本を読んでおけばよかった。 なぜ「反哲学」かというと、著者(および著者が依拠するハイデガー)によれば、西洋哲学はプラトン以降自然を越えた「...

カルロ・ロヴェッリ(冨永星訳)『時間は存在しない』

イタリア出身の理論物理学者による時間についての本。 大きく三部構成。 第一部は、現代物理学の知見が動員され、時間の性質としてぼくらが日常的に思っているようなものは存在しないということが示される。まず、時間はどこでも変わりなく流れるものではない。流れ方は場所や速度によって異なるので、現...

フランソワ・ジュリアン(中島隆博、志野好伸訳)『道徳を基礎づける 孟子vs.カント、ルソー、ニーチェ』

「道徳」というと国家や共同体からおしつけられる硬直化した規範と思うのはぼくだけではないようで最近は「倫理」という言葉が好まれていてぼくもそっちをよく使う。でも、著者のジュリアンはその「倫理」という言葉を今流行のごまかし方といっている。翻るに、信号無視の常習犯のぼくではあるが、それ...

東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』

「観光客の哲学」といわれるとバブルの頃はやったような凡俗な消費社会肯定論の亜種を想像してしまいそうになる。しかし「観光客」とは「他者」のことだ。リベラリズムが常に訴え続けてきた「他者を大事にしろ」というポリシーが通用しなくなりつつあるなか、従来まじめな哲学考察の対象とされてこなか...

稲葉振一郎『不平等との闘い ルソーからピケティまで』

タイトルをみて、そういえばピケティブームあっという間に過ぎさってしまったな、という感慨に打たれたが、『21世紀の資本』の邦訳出版が2014年末で、もうそれからそれなりに年月が経過しているのだった。時の流れが速すぎる。 『不平等との闘い』というタイトルには煽りが入っているやも。中身は...

スピノザ( 吉田量彦訳 )『神学・政治論』

『神学・政治論』の70年ぶりにでた新訳。21世紀のスピノザ主義者を自認する(間違って名付け親を頼まれたらエチカという名前を提案しようと思っている)ぼくとしては読んでおかなくてはいけないと、使命感にかられて手をだす。訳者後書きに「直訳に置き換えてしまえば五分で済むところを、半日かけ...

野矢茂樹(文)、植田真(絵)『ここにないもの〜新哲学対論』

エプシロンとミューの2人が、散歩したり食事をしたりしながら、哲学なテーマについて語り合う。エプシロンは日頃から哲学的なことを考えているいわば哲学オタクだが、ミューは天然キャラで時折エプシロンの虚をつくようなことをポロッと口に出したりする。2人の会話にほとんど哲学の専門用語は登場し...

戸田山和久『哲学入門』

タイトルから、古今東西で培われてきた哲学という壮大な分野全体への入門書と勘違いされそうだが、ある意味本書で扱うのはそのほんのごく一部、しかもかなり端の方とみなされてきた部分だ。自然科学が発達した現代、哲学が扱う領域やスタイルも変わってしかるべきじゃないかという筆者の問題提起、つり...

レイモンド・スマリヤン(高橋昌一郎訳)『哲学ファンタジー』

スマリヤンといえばぼくの中では数学パズルの人だけど、この本のテーマは哲学。認識と存在、生と死、魂の永遠性など哲学の定番テーマを、スマリヤンならではの論理的明晰さ、手品でも見ているような意外性、そしてユーモアあふれる筆致で描き出した哲学エッセイ集。半分くらいは複数人による対話形式な...

野矢茂樹『哲学・航海日誌 I・II』

平易な(ときによって必要な程度に入りくんだ)言葉を読んでいるうちに、いつの間にか哲学的な思考の深みへと連れて行ってくれる本。得てして、そういう深みは、神秘のヴェールに隠されて結局よくわからないままだったり、抽象的すぎて不毛だったりするものだが、本書では、たくみなバランス感覚とでも...

前野隆司『脳はなぜ「心」を作ったのか 〜「私」の謎を解く受動意識仮説』

著者は脳科学者でも心理学者でもなく、ロボット、コンピュータに明るい工学畑の人。明晰でわかりやすい文章ですらすら読むことができた。 人間の「意識」は何のためにあるかという疑問にあっさり答えてしまう本。著者の主張はとてもシンプルだ。「意識」=「私」は、心の持つその他の機能、「知」、「情...

青山拓央『新版 タイムトラベルの哲学』

SF映画など虚構の世界では、自明なことみたいに描かれているけど、タイムトラベルというのが具体的にどういう現象をさしているのか考えれば考えるほどわからなくなる。何が移動するのか?移動してたどりついた世界は移動する前の世界とどういう関係なのか?つまり、タイムトラベルは可能か、という疑...

マイケル・サンデル(鬼澤忍訳)『これからの「正義」の話をしよう 今を生き延びるための哲学』

あなたは路面電車の運転士で、ブレーキがきかないことに気づく。前方には5人の作業員。待避線に入れば5人の命は助かる。だが、そちらにも作業員が1人いる。あなたはまっすぐ進むのと待避線に入るとのどちらを選択すべきか。あるいは、あなたは同じ事故を目撃している傍観者で、橋の上にいる。今度は...

永井均『道徳は復讐である -- ニーチェのルサンチマンの哲学』

永井均のニーチェに関する本を読むのは『これがニーチェだ』に続いて二冊目、内容的には目新しいところはそれほどなく、パフォーマティブな変奏曲集という感じだ。 何度目の当たりにしても、現在公認されている倫理や道徳というものが、ルサンチマン[現実の行為によって反撃することが不可能なとき、想...

丹治春信『クワイン -- ホーリズムの哲学』

<img src=“http://i1.wp.com/ecx.images-amazon.com/images/I/515NsVTrPQL._SL160_.jpg?w=660" alt=“クワイン―ホーリズムの哲学 (平凡社ライブラリー)” class=“alignleft” style=“float: left; margin: 0 20px 20px 0;”” data-recalc-dims=“1” /> 日本では、アクロバティックな言葉のパフォーマンスをくりひろげる、フランスを中心とした大陸系の現代哲学ばかりが紹介されてきたけど、それとは別に、英米ではもっと地道に、言語や論...

ピエール=フランソワ・モロー(松田克進、樋口善郎訳)『スピノザ入門』

「スピノザは、専門的哲学研究の外部の世界でもっとも人気のある哲学者の一人」と書かれている事例のひとつが、このぼくで、だから本書を手に取ったわけだ。さて、なまじ人気があると、いろいろなことをいわれてしまうのが世の常で、その中のどれが確かでどれが眉唾なのかを切り分けつつ、本書は、彼の...

高橋昌一郎『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』

『理性の限界』という挑発的なタイトルがつけられているが、欲望に負けて……、というような通俗的な物語ではなく、ときとして万能に思える人間の理性に、原理的に備わっている三つの限界を朝生のスタイルで楽しく紹介している。 まずは、選択の限界。複数人が民主的に何か...

入不二基義『時間は実在するか』

「時間は実在しない」。そんなことを証明した哲学者がいたらしい。その名はマグタガート。彼の名前を冠してそのパラドックスは「マグタガートのパラドックス」と呼ばれている。以前、それに関する説明を読んだが、なんだかわかったようなわからないような、矛盾した状態にとめおかれて、まさにパラドッ...