町田康『ゴランノスポン』

ゴランノスポン (新潮文庫)

久しぶりの町田康の短編集。今までの印象だと、町田康の小説の主人公は多かれ少なかれ彼自身を韜晦して変形した自堕落な自己像なんだけど、今回新しい要素が入ってきた気がする。表題作『ゴランノスポン』の貧しく空虚な日常を前向きな意識で虚飾し続ける若者、『一般の魔力』の他者への悪意に凝り固まった逃げ切り世代勝ち組オヤジ。この二人はまさに現代日本の縮図そのままだ。笑いながら、二人の表裏一体となった醜さにうそ寒くなってくる。それはどちらもぼくの中にもあるものだからだ。

『先生との旅』の豚足を食べて汚れた手を主人公の上着にこすりつけつつ、意味がないようで深みにあふれているようなそのギリギリのラインの言葉を投げかけてくる「先生」のキャラクターにはしびれた。

あと『源氏物語』の中の一編『末摘花』の町田康訳版もすばらしい。『源氏物語』を全編このはちゃめちゃなふざけているようで深くえぐるような文体で読みたくなった。