町田康『宇治拾遺物語』

現代語訳というよりかは音楽でいうところのカバーというのが近そうだ。 古典の説話集『宇治拾遺物語』のなかから33編選んで、ストーリーは細部を含めて同一のまま語り口をカタカナ言葉や関西弁が入り混じる、いかにも町田康調のはっちゃけた感じに置き換えている。たとえば『奇怪な鬼に瘤を除去される』というこぶとり爺さんの物語では以下のような感じだ。 ...

町田康『どつぼ超然』

久しぶりの紙の本、久しぶりの日本の作家の作品、久しぶりの町田康。 一応小説と呼んでいいのだろうが、虚構の厚みが薄い作品。田宮(たみや→たみあ、逆から読めば熱海)に移り住んだ主人公が浜辺や沖合いの孤島(初島)、近所の牧場で開かれたイベント、文豪が泊まった旅館の跡の見学など、固有名詞が変えてあるので実際には使えないことを別にすれば観光ガイドと言ってもいいような内容。いつもなら日常のたたみをぶち抜いて虚構へと入り込むところを、おいたは主人公の自意識の中だけにとどめ、頑なに田宮という町の日常に留まり続ける。 ...

町田康『ゴランノスポン』

久しぶりの町田康の短編集。今までの印象だと、町田康の小説の主人公は多かれ少なかれ彼自身を韜晦して変形した自堕落な自己像なんだけど、今回新しい要素が入ってきた気がする。表題作『ゴランノスポン』の貧しく空虚な日常を前向きな意識で虚飾し続ける若者、『一般の魔力』の他者への悪意に凝り固まった逃げ切り世代勝ち組オヤジ。この二人はまさに現代日本の縮図そのままだ。笑いながら、二人の表裏一体となった醜さにうそ寒くなってくる。それはどちらもぼくの中にもあるものだからだ。 ...

町田康『宿屋めぐり』

町田康の文章を読んでいると知らず知らずニタニタしてしまう。700ページ以上読み切る間ニタニタし通しだった。さすがにラスト近く、あまりにグロい描写が連続するあたりはそのニタニタも凍りついたが、それもやがて突き抜けた爽快感に変わる。 ...

町田康『浄土』

ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバ!カッパ!ビバz ...

町田康『告白』

明治26年に城戸熊太郎が弟分谷弥五郎とともに一夜に幼児を含む十人の人間を殺した河内十人斬りの事件を題材にした長編小説。文庫で800ページを越える厚さでこの本そのものが武器になりそうだった。 ...

町田康『パンク侍、斬られて候』

一応時代小説といっていいのだろうか。主人公の牢人掛十之進が通りかかった旅の父娘の父の方をいきなり斬り捨てるところからはじまる。その理由を問われて、掛は彼らが腹ふり党というカルト宗教団体の一味だから斬ったという(でも間違いだったということがわかる)。 ...

町田康『権現の踊り子』

昔筒井康隆の小説を読みながら悪人のようなほっほっほという笑みを浮かべていたが、今は町田康の小説を読みながら同じ笑みを浮かべている。 中編や長編では、語り手=主人公が自らの自堕落さもあって悪夢的な世界に巻き込まれるというパターンが多いが、本書は短編集なので、時代劇もあったりして、バラエティに富んでいる。語り手以外の人物を中心に描かれている作品もいくつか収録されているのだが、その中で一番魅力的なのは『工夫の減さん』だ。 ...

町田康『きれぎれ』

日本語はもう死んだと思っていたけど、町田康の言葉はいつもぴちぴちぷちぷちと生きがよくて小気味いい。 中編二本が収録されている。表題作の『きれぎれ』と『人生の聖』。これまで読んだ作品は、基本的にだめ人間のさらなる没落の軌跡という一応ストーリーの流れがあって、その中に突拍子もない幻想が紛れ込むというものだったのだけど、この二作品は、幻想が全面に出ていて、ストーリーは背後におしやられている。特に『人生の聖』はオムニバス的な構成になっていて、終わりのない悪夢のように、微妙に異なるシチュエーションで、「没落」のバリエーションが綴られてゆく。 ...

町田康『屈辱ポンチ』

表題作より冒頭の『けものがれ、俺らの猿と』の方が圧倒的にすごい作品。妻に逃げられ、部屋を追い出されることになった売れない映画脚本家の前においしい仕事の話が持ち込まれるが、それはさらなる悪夢の続き。関わる人間はどいつもこいつもねじのはずれたやつばかりで、怪しい自警団の男にぼこぼこにされたり、変な街のおかしな祭りで騒動にまきこまれ、雨に濡れて死にそうになり、キ印の男につかまって一晩中俳句作りにつきあわされる。そんな主人公の耳に最後に響く声とは…。 ...

町田康『夫婦茶碗』

『くっすん大黒』同様、とめどない堕落志向を持った男たちの物語。これを読んでいると何かをうまくそつなくやることはつまらないことで、ダメにしていくことのほうに美学を感じてしまう。『夫婦茶碗』ではそのダメさが主人公の精神まで侵食して、書きかけのメルヘン小説の主人公小熊のゾルバともどもなんかひどいありさまになっていくのだけど、その中で突如光だす妻への愛が、夫婦茶碗に結実するところはまさに詩だなと思ったのだった。 ...

町田康『くっすん大黒』

重い本のあとには爆笑もののこの本。電車の中で笑いをかみ殺すのに苦労したが、半日で読み終えた。 二編入っていて『くっすん大黒』と『河原のアバラ』。どちらも生活破綻者の自堕落な中年男が主人公なのだが、なかなかどうして、行動はモラリスティックで論理的だ。そんな男と仲間たちがひきおこすとんちんかんな道中記。『河原のアバラ』のラストで絶望的な状況でありながら、いつまでもいつまでも笑い続けるシーンをキューブリックあたりに撮らせてみたかった。 ...