ピエール=フランソワ・モロー(松田克進、樋口善郎訳)『スピノザ入門』
「スピノザは、専門的哲学研究の外部の世界でもっとも人気のある哲学者の一人」と書かれている事例のひとつが、このぼくで、だから本書を手に取ったわけだ。さて、なまじ人気があると、いろいろなことをいわれてしまうのが世の常で、その中のどれが確かでどれが眉唾なのかを切り分けつつ、本書は、彼の生涯、著作、その解釈をめぐる問題点、後世の受容のされ方を平易に解説してくれる。
一応入門と銘打ってはいるが、さすがにこれまでにスピノザの思想に全く触れたことがない人がエッセンスを把握するには紙幅が足りなくて、むしろぼくみたいに中途半端にスピノザ関係の本を読み散らかした人間が、頭の中を整理するのに絶好の本だと思う。
いろいろ示唆されることがあった。たとえば、第三種の認識とか、永遠性とかいうのは決して神秘的なものじゃなく、論理的な手段でたどりつけるものなんだとか、スピノザは理性の全能性を信じていたわけじゃ全然なく、むしろそれはか弱いものだと認識しているけど、それ以上の道具はどこにもないし、ちゃんと使いさえすれば、この世界の全体が理解するところまでいきつける、という「絶対的合理主義」というべきものだった。このあたり我が意を得たりという感じだった。
(考えてみると、初期のウィトゲンシュタインはこれを転倒して、理性で理解できるもの全体を論理空間と名付けて、その外の世界を語り得ないといったんだろう。これに限らずスピノザとウィトゲンシュタインの関連性をつきつめてみるとおもしろいと思うが、そういう本はないだろうか)。
反面、個人的に考えあぐねている部分なので、決定論と自由意志についてはもうちょっと語ってほしかったと思う。