サンプル『蒲団と達磨』
ほんとうは先週見るはずだったのだが、仕事のトラブルでチケットをふいにして、再チャレンジした。
岩松了の1989年の戯曲だ。娘の結婚式の日の夜、畳に蒲団が二組敷かれた古い日本家屋の夫婦の部屋。いかにも小津映画的なシチュエーションだが、登場人物やその間の関係性はかなり異形だ。夫は謹厳な高校教師だが性的な欲望が強い。若い後妻である妻はその欲望を受けとめきれず落ち着ける居場所を求めてアパートを借りようとしている。そういう緊張感をはらむ夫婦の寝室にいれかわりたちかわり奇妙な人々が訪れる。体調を崩したバスの運転手、不安定で共依存的な妻の弟夫婦、近くのアパートにひとりで暮らす夫の妹、住み込みの家政婦、近所の飲み友達、そして妻の前夫。
バブル絶頂期にあえて小津映画の形式を借りたことの倒錯と、それをバブルが歴史上の出来事になってしまった今上演することの倒錯が二重に重ね合わされた舞台だった。今なら確実にセクハラとして眉をひそめられる数々の言葉や行為の意味合いをどう感じ取ればいいのかよくわからなくなる。
いつもチェルフィッチュではボーイッシュな出で立ちの、安藤真里さんの喪服のような黒い留袖姿の色気がよかった。
終演後の古舘寛治さんソロのポストパフォーマンストークも楽しくて(役柄とは正反対のシャイな人なのだ)、今日観に来てよかったと思わせてくれた。
作:岩松了、演出松井周/神奈川芸術劇場大スタジオ/指定席3700円/2015-03-13 19:00/★★★
出演:古舘寛治、古屋隆太、辻美奈子、奥田洋平、野津あおい、安藤真理、大石将弘、田中美希恵、新名基浩、松浦祐也、松澤匠、三浦直之