青山円形劇場プロデュース『夕空はれて —よくかきくうきゃく—』

夕空はれて

もともと別役さんの新作を上演することになっていたが、病気のため執筆できずということで、急遽旧作の上演ということになった。なんかそそらないタイトルだけど、中身は大変おもしろおかしく、しかも今この時代の状況が射程に入った深い作品だった。

セールスマンが空っぽの檻のそばを通りかかり、地元の人たちがライオンが入っていたんだけど、人をかみ殺して逃げているけど、もうすぐ捕まるからみていくといいと誘われる。そこに集まる人々は口では自分は噛まれたくないというものの、それは噛まれるかもしれないスリルを最大限楽しみたいと意味を含意していて、純粋にかまれたくないというセールスマンとはどうも話がかみ合わないのだった。しかも住民たちはその檻の中の動物を虎といったり熊といったりもして、ますますわけがわからない。やがて捕まったライオンだか虎だか熊だかが袋に入れられて運び込まれるが、中に入っているのは人の大きさで言葉を発している……。

「噛まれたくない」という言葉が「噛まれたい」ということを意味している世界では「ほんとうのほんとうに噛まれたくない」ということを表現するすべがない。笑ってしまうような状況だけど、今の日本でもこれは起きてしまっていることだ。互いの島宇宙の言語に介入する術がない。主人公のセールスマンは自分の身の安全とローカルな正しさを確保することだけはできたが、その結果惨劇を招いてしまった。

池谷のぶえさんの怪演よかった。

青山円形劇場もこれでほんとうのほんとうに最後。数えてみたらちょうど20本みたことになる。円形の舞台を客席が囲むのでどの席でも至近距離でみられるし、360度どの角度からも観客の視線にさらされるということで、他の劇場にない独特な舞台空間を生かした芝居をみることができた希有な劇場だった。いずれどこかでこの形の舞台を復活させてほしい。

作:別役実、潤色・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/青山円形劇場/指定席6900円/2014-12-06 18:00/★★★

出演:仲村トオル、マギー、山崎一、奥菜恵、緒川たまき、池谷のぶえ、犬山イヌコ、後藤英樹、大村わたる