野田地図『南へ』

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作・演出:野田秀樹/東京芸術劇場中ホール/S席9500円/2011-03-05 19:00/★★★

出演:妻夫木聡、蒼井優、渡辺いっけい、高田聖子、チョウソンハ、黒木華、太田緑ロランス、銀粉蝶、山崎清介、藤木孝、野田秀樹、玉井夕海、佐々木香与子、橋本ゆりか、手打隆盛、木村悟、菊沢将憲、草野千裕、竹田靖、佐藤悠玄、白倉裕二、永田恵実、三明真実、佐々木冨貴子、富永竜、下司尚美、大西智子、近藤彩香、根本大介、大石貴也、黒瀧保士、小野ゆり子、原田樹、長尾純子、野口卓磨、益山寛司、益山貴司

野田秀樹は、このところ少なくとも表面上はわかりやすい物語が続いていたけど、今回はかなり骨太で考えさせる作品。

富士山の火山観測所に自殺しようとした謎の女あまね(蒼井優)と南のり平と名乗る新任の観測所員(妻夫木聡)が相前後してやってくる。男は迫り来る噴火を警告するが誰もとりあってくれず、女は息をするように嘘をつき続ける。そこに天皇の行幸の下見だという一行があらわれ、行幸と噴火の危険性をめぐるすったもんだが繰り広げられる中、女が語る「嘘」は時空を飛び越え、舞台は300年前の大噴火の時代との間を行き来する……。

「顔をみたこともない人」と表現される、いわば明確な実体をもたない空虚な象徴としての「天皇」。そしてそのために命を捨てた人々=英霊。英霊は記憶をなくしているが、北からやってきた女の集めた「他人の記憶」の中からそれは断片的に復元される。他方、無責任に浮かれ騒ぐだけの人々。それはいわば日本史そのもの。日本人の精神構造に対する痛烈な批判になっていたと思う。

はじめて舞台で実物をみる蒼井優は、席が遠くて表情まではみえなかったが、やはり存在感がすごかった。声に疲れは感じたものの、彼女が話すとひきこまれる。