竹田青嗣『現象学入門』
入門と銘打っておきながらちっともわかりやすくない本はごまんとあるが、本書はそんなことはなく、少なくともわかった気にはさせてくれる本だ。
主観と客観の関係をどうとらえるかというのが近代哲学の最大の課題だった。そうこうしているうちに自然科学が客観の上に王国を作り上げてしまって、それに待ったをかけたのがフッサールの「現象学」だ。客観とかいうけど、人間にとってほんとうに確かなものは主観しかないんじゃないの、それなら客観の存在はカッコの中にいれて主観から始め直そうよ、というのが現象学の立場。人間の意識の中から疑わしいものを取り除いていくと、どうしても疑い得ない直感が残る。現象学はそれがなぜなのかを明らかにする。そういう意味で、現象学は真理の体系ではなく、自然科学と同じように、方法論だ。
筆者は現象学はさまざまな誤解にさらされていると書いていて、本書の中ではその誤解をひとつひとつ解いていっている。確かに、不当な誤解があるのはその通りで、現象学の方法論がありだというのは納得できたが、反面、客観的な世界をカッコの中にいれてしまうのは一種のストイシズムで、その限界の中で見えてくるものはあるものの、それはその限界の線の引き方のせいでそう見えるのではないか、もう少し広げればどうなのか、と考えてしまった。
もうひとつ。柄谷行人が『探求I』で書いていた、現象学は主観が万人にとって同じ構造だという前提にたっていて他者がいない、という指摘には答えていなかった。
★★