村上春樹『国境の南、太陽の西』

とりあえずこれで、さぼって読んでいなかった村上春樹の作品(少なくとも長編)は読めたはず。はるか以前に読んだ『羊をめぐる冒険』、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』などはもうほとんど忘れかけているが。すばらしかったということだけ覚えている。 ミステリアスなラブストーリー。...

村上春樹『スプートニクの恋人』

このところ村上春樹の作品を集中的に読んでいるけど、英米文学をあらためて日本に移入しているという感じを強く持つ。明治の文明開花期に一度そういう仕事が集中的になされたのだけど、いつの間にか日本文学は鎖国的に独自の道を歩むようになっていった。そこに新しい血(「犬の血」かもしれない)を注...

村上春樹『アフターダーク』

目にしているのは都市の姿だ。 長い冬の夜。物語は23時56分のファミリーレストランからはじまる。ふつう三人称で語られる小説の語り手は決して表面に現れず、特権的な高みから淡々と物語るものなのだけれど、この物語では、視点の移動があからさまに語られ、彼(ら)あるいは彼女(ら)は自分(たち...

村上春樹『海辺のカフカ』

物語の骨格だけたどると15歳の少年の精神的成長を描いた典型的なビルドゥングスロマンなのだけど、メタフォリック、つまりメタファーとしてしか理解し得ないようなキッチュでオカルティックな出来事が次から次へと連鎖する。たとえば空から魚やヒルが降ってきたりだとか、夜な夜な少女の幻影が部屋を...