村上春樹『スプートニクの恋人』

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

このところ村上春樹の作品を集中的に読んでいるけど、英米文学をあらためて日本に移入しているという感じを強く持つ。明治の文明開花期に一度そういう仕事が集中的になされたのだけど、いつの間にか日本文学は鎖国的に独自の道を歩むようになっていった。そこに新しい血(「犬の血」かもしれない)を注ぎ込んだのが村上春樹だと思う。村上春樹の登場人物たちはまるで翻訳小説のようなしゃべり方をするし、メンタリティーも過度に個人主義的だ。でも、なぜかエビアンでも飲むみたいに違和感なく一気に読めてしまう。

スプートニクとは旧ソヴィエト連邦が打ち上げた人工衛星の名前だ。2号機にはライカ犬が乗せられていて宇宙に出た最初の生物という意味のない栄誉を勝ち得たが、地球に戻ってくることはできなかった。

この奇妙な恋愛物語に「スプートニク」という名前をつけたのは当事者の一人で、ほかの言葉(「ビートニク」)と間違えてのことだった。

「スプートニク」とはロシア語で「旅の連れ」を意味するらしい。連れは、激しい恋に落ちた相手かもしれないし、心を開いて見せ合うことのできるかけがえのない友人かもしれないし、あるいは自分の分身かもしれない。いずれにせよ、一度はぐれてしまうと、人工衛星のように寂寞とした宇宙空間の中をほとんど交流もなく飛び回るしかない。

★★★