村上春樹作品で一番好きなのは『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』なのだが、これはその文字通りの姉妹編。今回の出版ではじめて知ったのだけど、1980年に雑誌掲載されたあとお蔵入りになっていた『街と、その不確かな壁』(読点がついている)という幻の中編があるらしく、「世界の終...
初読以来8年たって再読したのは、映画『ドライブ・マイ・カー』をようやくみたからだ。完膚なきまでに忘れていて潔いくらいだった。 初読時には各作品の内容にはほとんど触れなかったので、今回は映画とからめつつ各編の内容に触れていこう。 映画のタイトルになった『ドライブ・マイ・カー』からは主要...
2018年7月から2020年2月までに雑誌に掲載された作品を中心にした、8編からなる短編集(表題作の1編だけ書き下ろし)。 各作品から共通項をくくり出すと、自分の過去の作品(未発表のものを含む)がなんらかの形でベースになっているものが3編(もし『石のまくらに』の短歌を含めていいなら...
村上春樹が初めて自分の父について書いたエッセイ。中くらいの短編の長さだが、刊行にあたって他の作品と組み合わせるのが難しいということで台湾出身の高妍さんの挿絵をつけて単独で出版されている。 村上春樹さんの父村上千秋は1917年に生まれ、2008年に亡くなっている。寺の住職の子として生...
川上未映子による村上春樹へのロングインタビュー。2015年7月9日、2017年1月11日、2017年1月25日、2017年2月2日の計4回、それぞれ長時間にわたるインタビューの内容が収録されている、村上春樹はめったにインタビューを受けない人なので、これまでのインタビュー(主に海外...
好きな登場人物は当然騎士団長です。 これほど集中して本を読んだのはほんとうに久しぶり。まさに読みふけるという感じだった。『1Q84』は、スタイルとしても内容としても村上春樹らしくない作品で一応堪能としたとはいえ、これじゃない感がぬぐえなかったが、今回は決して新しさはないものの村上春...
1995年から2015年にかけて世界のあちこちを旅して書かれた紀行文をまとめた一冊。訪れた場所は、ボストン(1995年、2012年)、アイスランド(2004年)、2つのポートランド(アメリカのメイン州とオレゴン州、2008年)、ギリシャのミコノス島とスペッツェス島(2011年)、...
タイトルから、とうとう村上春樹が非モテを主人公にした小説書くのかと思ったがちがった。基本モテだが、女性にさられてしまった男たちの物語だった。まず、巻頭に村上春樹にかつてない「まえがき」がついていて、この短編集の成立過程を「業務報告」的にさらりと書いてあって、これまでと違う感じを受...
発売早々に読んだ人たちの感想は酷評に近いものが多かったが、ぼくはかなり楽しめた。前作『1Q84』より10倍以上好きな作品だ。 自称平凡で特徴がなく空虚な男多崎つくるは高校生のとき4人の同年代の仲間と一体感に満ちた友情を結ぶが、二十歳のとき、突然仲間から追放されてしまい、しばらくの間...
19のインタビューのうち13が海外メディアのインタビューというところが特徴的。村上春樹「作家はあまり自作について語るべきではない」と思っていて、平凡な人間である自分自身に対して出なく作品の方に興味を持って欲しいといっている。ただ、海外に対してはある種の責任感を感じるらしく、比較的...
村上春樹がデビュー以来書いてきた「雑文」の中から本人自ら69編選んだ本。有名なところではエルサレム賞を受賞したときの『壁と卵』のスピーチの日本語原文が収められている。気楽なくだけた文章もあるが、自らの創作活動を考察する気合いの入った文章もある。くだけている方でいうと、『夜のくもざ...
元旦にトラン・アン・ユン監督の映画をみて、読み直そうと思った。 みているときにも感じたが、結局のところ、映画はきれいな映像つきのインデックスのようなものだった。その映像美を堪能するだけで十分価値はあるが。主要な出来事がどんな様子でどういう順番で起きたかということは、ちゃんと伝えてく...
正直 BOOK 2 はあまり楽しめなかった。BOOK 1 では思う存分羽ばたいていた想像力の翼が、村上春樹自身がリーダーの預言に支配されたかのように、普遍化することの不可能な、青豆と天吾二人の特殊な愛の物語に縮まってしまったように思えたからだ。とはいえ、「BOOK 3はたぶんない」と書いたのにBO...
われながら、村上春樹を英語で読もうなんて、かなり倒錯していると思う。もともと英語の勉強6割、読書の楽しみ4割くらいのつもりで読み始めたのだ。 まず、英語の勉強についていえば、かなり効果はあったんじゃないか。英語圏の小説だと、言葉以前に習慣の違いで理解できないことがあったりするが、こ...
日本語が母語でよかった。 上下巻でなくBOOK 1、BOOK 2 なのはひょっとして BOOK 3 がありうるということを示しているのではないかと思ったが、これは、小説の中で言及されるバッハの平均律クラヴィーアの構成を模倣しているためだった。平均律クラヴィーアは、24の前奏曲とフーガがメジャー、マイ...
記念すべき村上春樹のデビュー作。再読のはずだけど、たぶんそれは前世の出来事だったようだ。 途中からひょっとしたらと思ったが、語り手の「僕」が文章についての多くを学んだというデレク・ハートフィールドはやはり架空の小説家だった。つまり、デレク・ハートフィールドは村上春樹にとってのキルゴ...
Q 村上春樹の短編小説『中国行きのスロウ・ボート』は「最初の中国人に出会ったのはいつのことだったろう?」という「考古学的な疑問」からはじまります。それは1959年か1960年のどちらかで、ヨハンソンとパターソンがヘヴィー・ウェイトのチャンピオン・タイトルを争った年でした。主人公はそ...
再読……のはずなのだか、何を読んだのかというくらい、ディテールはおろか基本的なストーリーさえ覚えていなかった。むしろ読んだのは誰だと問いかけたくなる。覚えていたのは、この作品がおそらく村上春樹の現時点での最高傑作といっていいくらいすばらしい作品だということで、読み終えた今、その記...
アメリカで翻訳・出版された村上春樹の短編集と同じ構成で編んだ日本語版。もちろん英語から訳し直したわけでなく(それはそれで読んでみたいが)オリジナルの作品が収められている。 『ねじ巻き鳥と火曜日の女たち』、『パン屋再襲撃』、『カンガルー通信』、『四月のある朝100パーセントの女の子に...
それまでの人生で偶発的に負ってしまった瑕や歪を克服してより本来的な自分自身に回帰するというのは、村上春樹のみならず現代文学でよくとりあげられるテーマのひとつだ。村上春樹には特にそういうテーマの作品が多い印象があって、ひょっとしたら多かれ少なかれすべての作品にそういう要素が埋め込ま...