村上春樹『風の歌を聴け』

風の歌を聴け (講談社文庫)

記念すべき村上春樹のデビュー作。再読のはずだけど、たぶんそれは前世の出来事だったようだ。

途中からひょっとしたらと思ったが、語り手の「僕」が文章についての多くを学んだというデレク・ハートフィールドはやはり架空の小説家だった。つまり、デレク・ハートフィールドは村上春樹にとってのキルゴア・トラウトだったのだ。でも、彼はその後の作品には一度も登場していない。メタフォリカルな味付けを誰かの架空の小説の中の話として持ち出すのではなく、本編の中に盛り込むようになっていったので、彼の存在は必要とされなくなったのだろう。

自殺したガールフレンド、指の数がふつうと違う女の子、双子、井戸など、その後の作品に登場するモチーフがさりげなく登場している。そういうものに目をこらすだけでもおもしろい。