矢作俊彦『ロング・グッドバイ』

ロング・グッドバイ (角川文庫 (や31-5))

「長いお別れ」じゃなくて"THE WRONG GOODBYE"つまり「間違ったお別れ」だ。といってもバチモノではなく、チャンドラーとフィリップ・マーロウの系譜を受け継ぐ正統的なハードボイルドだ。

主人公の二村永爾は神奈川県警の刑事だ。彼はある夜、ビリーと名乗る、日系アメリカ人の、気持ちがいい酔っぱらいと出会う。二人はそれからたびたび酒を酌み交わすが、一ヶ月後不可解な別れをむかえる。それは在日米軍のからんだダーティでブラッディな事件の本編の幕開きで、横浜と横須賀という二つの街を舞台に二村はひとりで事件に挑む。

ラスト近く、二村は立て続けにいくつものお別れを経験する。自分が選んだお別れ、向こうからやってきたお別れ、どれも間違いじゃないほんとうのお別れだ。一人立ちすくむ姿は寂寞というよりもういっそすがすがしさを感じる。しめくくりの言葉は、「長いお別れ」へのオマージュ。そう、まだ人類はそれを発明していないのだ。