原尞『愚か者死すべし』

愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)

前作『さらば長き眠り』から9年もの月日をおいて刊行された、探偵沢崎を主人公にした新シリーズ。著者による後記に「ただひたすら、それら(旧シリーズの諸作品)より優れて面白い作品を、それらより短時間で書くための執筆方法と執筆能力の獲得に苦心を重ねておりました」とある通り、これまでとは文体がかなり変わっている。よくいえば軽快になったということだが、それは何か重大なものが失われたことによる軽さのように感じられた。

会話で物語が展開していくのはいいと思うのだけど、沢崎がまるで電話相談室の回答者であるみたいに、登場人物が気軽になんでも話してしまって、とても不自然だ。それで沢崎自身が単なる世慣れた狂言回しになってしまっていて加齢臭のようなものを感じる。数いるハードボイルドの探偵の中で、沢崎の魅力は、ストリクトなストイックさにあると思っていて、それは健在なのだが、旧シリーズにはその背景に複雑な屈折を感じられたのに、新シリーズでは平板で現実味を欠いているように思える。

確かに、今の文体の方が読みやすさという点では上なので、人気はとれるのかもしれないけど、旧シリーズのファンとしては、時間がかかってもいいから昔の詩的で重厚な文体で書いてほしいと思う。