KERA・MAP『グッドバイ』
太宰最後の未完の小説をベースにウェルメイドなコメディーに仕上げた作品。戦後数年後の東京。編集である田島は、田舎に妻子をおいたままで、闇商売に関わって巨額の財をなし、十人近くの愛人と付き合っていた。そんな彼が、愛人と手を切り、妻子を田舎から呼び寄せようとする。そのための策略としてどこからか見つけてきた超美人の女性に妻の役を演じてもらって愛人たちの元を訪ねることにする。その白羽の矢がたったのがキヌ子という闇屋で働くだみ声の女性だ(小池栄子がいい声を出していた)。そのたくらみがあたったのかどうか、彼は愛人たちに次々に別れの言葉「グッド・バイ」を告げられていく。そして思ってもみなかった相手からも……。
原作を読んでないので(実は、太宰作品は一冊も読んだことがない。読めばはまるのは間違いないので逆に避けてしまっている)、なんともいえないが、おそらく原作が書かれているところまでは原作に忠実で、ストーリーとしては主人公の没落を描いた自己憐憫的な話が展開していく。それ以外の笑いの部分が大幅に追加されてはいるが。
時間にして終わりの三分の一くらいはまったくオリジナルのストーリー展開で、ほのぼのタッチの大団円をむかえる。太宰ファンからすると冒涜かもしれないが、今この時代太宰をこういう形で裏切るのは小気味いい感じがする。太宰の原作も読んでみなくては。
池谷のぶえさんがあいかわらずすばらしい。ひとりで何人分も笑わせてくれた。
原作:太宰治、作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/世田谷パブリックシアター/A席6800円/★★★
出演:仲村トオル、小池栄子、水野美紀、夏帆、門脇麦、町田マリー、緒川たまき、萩原聖人、池谷のぶえ、野間口徹、山崎一