地点『悪霊』
つい最近『悪霊』を読んだタイミングで今回の上演。グッドタイミングというしかない。
長大な小説だし、地点なので、ストレートな演劇化ではない。舞台には雪が降っていて、池に見立てられたとおぼしき中央の沈み込んだ穴のまわりを安部聡子さんがハイペースでジョギングしているシーンからはじまってまず舞台の美しさと奇抜さに度肝をぬかれる。彼女には物語の語り手G(小説では男性でほとんど描写らしい描写はされていない)の役柄が割り当てられていて、そのほかの俳優にも小説の登場人物が割り当てられているが、その役柄を演じるというのでなく、なんというかむしろリーディングに近い。その人の言葉を独特な抑揚や発音で読むのだ(Gに顕著だがたまに他の人の言葉を読んだりもする)。登場人物たちはほぼジョギングをしているか互いに柔道の組み手のようなことをしている。
舞台上は基本的に言葉のみの世界であり、ジョギングと組み手以外の具体的な出来事といえるようなことは起きない。ただ、ジャケットを頭にかぶることで表現される死はひとりひとりに静かに唐突にやってきて、小説同様舞台上の大部分の人が死んでしまい、生きている者も静止し雪もやみ静寂が訪れる。もっとも舞台上をながれる時間はいったりきたりをくりかえしているので、再び喧噪がはじまるのだが。
いつもの地点の作品のように心地よい不可解さにつつまれつう、この世界は、登場人物たちが死んだ後にいった煉獄なのではないかと思えてきた。
原作:F・ドストエフスキー、演出・構成:三浦基/神奈川芸術劇場大スタジオ/自由席3500円/2014-03-14 19:30/★★
出演:安部聡子、小林洋平、窪田史恵、根本大介、小河原康二、岸本昌也、河野早紀、石田大、永濱ゆう子