地点『三人姉妹』
作:アントン・チェーホフ(神西清訳)、演出:三浦基/吉祥寺シアター/指定席(『桜の園』との)セット券6500円/2008-10-11 19:30/★★★
出演:小林洋平、谷弘恵、安部聡子、窪田史恵、山村麻由美、砂尾連理、石田大、岡嶋秀昭、大庭祐介
地点をみるのは2度目、3年9ヶ月ぶりだ。前回見た直後に拠点を京都に移してしまったそうで、ぼくのアンテナからはずれてしまっていたが、けっこうビックになって東京に里帰りしてきた。しかも演目はチェーホフ、これは見ないわけにはいかない。
この前みたときには奇妙なリズム、イントネーション、強弱をつけて語られる一種音楽的なセリフ回しが印象的で、てっきり作品がそういう作品だからだと思っていたが、実はそれは地点という劇団の手法だったようで、今回のチェーホフでも全面的に採用されていた。
あと舞台装置もそれに負けず劣らずで奇抜で、白いドレスをまとったオーリガ、マーシャ、イリーナの三人姉妹は舞台中央の並べられた3つの奇妙な形の家具の上で座っていたり立っていたりで、ほぼそこから動かない。三姉妹の兄弟アンドレイはトイレの中でズボンをずりさげたまま便器に腰掛けている。
かなり面食らったが、不思議にこの『三人姉妹』という戯曲の構造や人物の性格を細部まではっきりと理解することができたのだった。三人姉妹の高慢さとそれに復讐するようにだんだん俗悪な本性をあらわしてゆくアンドレイの妻ナターシャ。ひきこもりで根っからの負け犬アンドレイ(通常の『三人姉妹』では一番存在感のない役だが今回は一番目立っていた)。マーシャの夫クルイギンの卑小さはドアを背負い鍵をじゃらじゃらさせることで表現される。マーシャと愛し合うヴェルシーニン中佐はとことん無力で哲学という言葉の世界に逃げ込んでいるだけの存在だ(でもその言葉は三姉妹の中に最後の希望としてむなしく残る)。イリーナに求婚したりするその他の軍人たちも同様で、そこにさらに凡庸さがつけくわわる。
原作に忠実に上演するとどうしてもセンチメンタリズムが前面に出てしまい、それによる人物への愛着が物語に対する理解を阻んでいたのかもしれない。今回はそういう要素をすべて排したおかげで、とても明晰に仕上がっていたのだろう。
終演後のポストパフォーマンストークに少し前まで身体をこわしておられた劇作家の宮沢章夫さんが登場した。元気な姿がみられて何よりだった。今までみてきたポストパフォーマンストークは儀礼的な会話で終わることが多かったけど、今回の演出を担当した三浦基さんと宮沢の応酬はお互いかなり深く突っ込んでいた。その場にいる人を少しでも楽しませようという、宮沢さんのサービス精神はほんとうにすごいと妙なところで感心した。