『シダの群れ』

作・演出:岩松了/シアターコクーン/A席7500円/2010-09-25 19:00/★★★

出演:阿部サダヲ、江口洋介、小出恵介、近藤公園、江口のりこ、黒川芽以、尾上寛之、裵ジョンミョン、伊藤蘭、風間杜夫

ヤクザの世界が舞台というから全然惹かれず、(これまでさんざん楽しませてくれた岩松了への)「義理」でみにいったのだが、うれしい大誤算で、とても面白かった。

ふたをあけてみれば、描かれているのは男たちを中心とした世界ではなく、女性たちがからむヤクザの家族の物語。むしろファミリードラマだ。

とはいえ、そこには裏切りがあり,失意の死がある。その、ある意味ありきたりで予定調和的な悲劇を、たったひとりで後景においやってしまったのが、阿部サダヲ演じる岡村という単なるチンピラヤクザの存在。ヤクザにむかないといわれる小心さと間抜けさ、ときおり顔を出す冷徹な狂気、慕っているアニキに対する愛憎入り交じるアンビバレントな態度。そんな単純さと複雑さが同居する奇妙な人間を見事に演じきっていた。阿部サダヲ、素晴らしすぎる。

黒川芽以も複雑な感情表現が要求される組長の次男の情婦を京言葉で好演、反面その次男を演じた小出恵介は岩松了の独特の複雑なセリフ回しについていけてなくて棒読みになっていた(まあふつうヤクザはそういうしゃべり方はしないけど)。席が遠かったのでチンピラの一人が近藤公園だとはまったく気がつかず。