KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』

場末の小劇場でドン・キホーテを演じていた老俳優が、自らがドン・キホーテであると思い込み、遍歴の旅に出てしまって困り果てている劇団の面々に診療所のナース名乗る女性から電話がかかってくる。行方不明の老俳優ヘンリー・クリンクルを保護しているというのだ。この冒頭部は文句のないおもしろさで、その先の展開を期待したが……
上演時間が休憩含めて3時間45分と長大で正直疲れてしまった。それなのに、物語のコアの部分が描ききれてない感がある。なぜ未経験のクリンクルがドン・キホーテを演じようと思ったのか、診療所の医者が手先を務めているという当の悪魔本体、ただ偉ぶっているセルバンテス少年とこの物語の関係……。登場人物の感情や物語のパーツがつながらないままだった。反面、なくてもいいかなと思えたシーンがいくつかあった。歌もなくてよかったかなと思う。感動はセリフでちゃんと伝えてほしい。
思うに、先に座組が決まって台本は後から(なんだったら稽古中に)できるというスタイルが元凶なのかもしれない。たくさんの出演者それぞれに役と見せ場を作る必要があり、それと整合性のある作劇はコンフリクトするだろう。きっと、劇団員のみの公演の方が完成度が高いのはそのためだ。
俳優陣はみなよかったし、いくつかひかるシーンもあった。ラストのあっけない終わり方は好きだ。
作、演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/神奈川芸術劇場大ホール/メインシーズンパスポート(35700円)/2025-09-20 13:30/★
出演:大倉孝二、咲妃みゆ、山西惇、音尾琢真、矢崎広、須賀健太、清水葉月、土屋佑壱、武谷公雄。浅野千鶴、王下貴司、遠山悠介、安井順平、菅原永二、犬山イヌコ、緒川たまき、高橋惠子/(音楽)鈴木光介、向島ゆり子、伏見蛍、細井徳太郎、関根真理、関島岳郎