M&Oplaysプロデュース『峠の我が家』
これまでみてきたなかで一、二を争う難解な作品。岩松作品はもともと登場人物の心の動きが、饒舌に本心を隠す形で難解になるのが味なのだが、今回はその本心がなかなか見えない。しかもストーリーも錯綜としている。
あまりネタバレにもならないと思うのでストーリーを書き下してみる。
季節はずれで休業中の峠のホテルが舞台。主人の稔は病気がちで息子の正継とその妻斗紀が切り盛りしている。ふだんは近くにある「道場」を主宰する中田と彼の付人的な富永以外訪れる人はない。そこに修二とその兄嫁がやってくる。麓で動いてないバスを待っているところを見かけた中田が声をかけたのだ。彼らは戦死した兄の戦友に軍服を届けるところだというが事情がありそうだ。
斗紀たちの側にも事情がある。斗紀の姉ユウコはもともと正継の恋人だったが出ていったまま音信不通だという。買っているカメの名スジバは道場の門人で戦死した人の名前からとったようだ。稔はそれらの出来事に責任があるようだ。ロビーの床には謎の傷がありヘビを殺そうとしてカサでつついたと説明されるもののほんとうのところはわからない。
出会ったばかりの斗紀と修二は突然共犯意識で惹かれあう。修二は罪の告白をするのだが、そのことをあらかじめ斗紀は知っていたかのようだ。意識が朦朧としている修二の視点から時系列入れ替わりの幻想混じりで描かれているのではっこりしないが、斗紀の罪は最後の最後で実行されたかに思われる。実は過去ではなく未来の罪だったようなのだ。しかしなぜそれをする必要があったか理由はわからない。
カメが命をはこぶという斗紀が考えた物語、時を経ても人を傷つけ続ける床の傷などさまざまなメタファーにあふれていた。リアルタイムでみているときは不可解さにあっけにとられたが、だんだんこういうディテイルが記憶に浮かび上がってきた。
演劇に限らずたいていのクリエイターは歳を重ねるとわかりやすい再生産に流れるのにこういうとがったものを作り続けるのはそれだけでも貴重なことだ。
作・演出:岩松了/本多劇場/指定席8000円/2024-11-02 18:00/★★
出演:仲野太賀、二階堂ふみ、柄本時生、池津祥子、新名基浩、岩松了、豊原功補