『羊と兵隊』
作・演出:岩松了/下北沢本多劇場/指定席6800円/2008-07-19 19:00/★★★
出演:中村獅童、田畑智子、辺見えみり、近藤公園、田島ゆみか、佐藤直子、高橋理恵子、永岡佑、阿部ユキ、岩松了
終わりの見えない戦争を遂行しているいつかどこかの国。舞台は軍に納める靴を製造して財をなした一家の住む邸宅。父、母、長男ルイ、長女ナナ、そして成人前の次女キキ。ただし邸の中で我が物顔にのさばっているのはほんもののルイではなかった。彼らはルイを納屋にかくまい、よく似た別の男を身代わりに出征させようとしているのだった。そんな中、ナナにエリート二世議員との結婚話がもちあがる。
舞台の上で語られるセリフがその外側の(虚構の)世界の広がりをどれだけ感じさせてくれるかということに関していうと、岩松了はほんとうにぴかいちだと思う。今回はとくに、身代わりの男がときおり見る道ばたのタイヤで遊ぶ子供の幻影や、チェーホフ『三人姉妹』をめぐる一連のやりとり、納屋を焼くというシチュエーションの村上春樹を経由しての不気味さ、などなど、この家族にせまる静かな崩壊の足音を聞き分けられたのだった。