劇団、本谷有希子『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』

劇団、本谷有希子『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』

作・演出:本谷有希子/吉祥寺シアター/指定席4300円/2007-06-23 19:30/★★★

出演:高橋一生、笠木泉、ノゾエ征爾、吉本菜穂子、松浦和香子、高山のえみ、斉木茉奈、すほうれいこ

本谷有希子を俳優としてはみたことあるが劇作家、演出家としてははじめて。いつの間にか超人気劇団になってしまっていて、気を抜くとチケットがとれなかったが、ようやく念願がかなった。

ユクという少女の思い出に捧げられたテーマパーク。そこにはユクのかつての恋人のトシローが、一人きりの従業員縞子、ユクになりきろうとする元自殺志願者の女性たち(ニューハーフ含む)が暮らしていた。実は、ユクとは当時主婦だった縞子が演じていた仮の姿で、事実が明らかになって、トシローは縞子でなくユクという仮象の少女を愛し続けることを選び、縞子はトシローに冷淡に扱われながらも、彼を助け見守るために従業員になることを選んだのだった。

テーマはずばり「宿命と成長」だ(偶然最近読んだ鈴木謙介『ウェブ社会の思想―<偏在する私>をどう生きるか』と同じテーマだ)。トシローは、生身の女性に幻滅して、自分だけのセカイを築き、そこで宿命としてユクという仮想の少女を愛し続けることを誓う。そのために受ける迫害も宿命として受け入れると公言する。トシローはほとんど共感できない存在として描かれているのだけど、彼の心の痛みはなぜかとてもリアルに伝わってくる。

ラスト。そのトシローが縞子をユクではなく縞子自身として受け入れようとする。それだけなら単なるひねくれたラブロマンスになってしまうんだけど、縞子に「いつかあなたに幻滅するかもしれない」といわせて、それでもトシローが縞子を選ぶところがすばらしい。二人だけのセカイを新たに造るのではなく、現実の中で、他者としての縞子を受け入れたのだ。

タイトルは、つけた時点では何も決まってないのがまるわかりだけど(とばかり思っていたが実は過去の上演作を大幅に改変したものだったようだ)、結果的にとてもよく練りあがった作品だった。ストーリーに予定調和的な息苦しさがなく、ある種のゆるさがあるのもよかった。