三浦俊彦『可能世界の哲学 「存在」と「自己」を考える』
様相論理というのは、古典的な述語論理に加えて、「可能」とか「必然」という様相をあつかえる体系なのだけど、そこでは「可能世界」という概念が前提とされている。つまり、ぼくらが存在しているこの世界以外に、無数のそうもありうるような世界が存在しているとするのだ。その概念を使えば、「可能」というのはそれらの可能世界のうち少なくともひとつの世界で成り立つことで、「必然」というのはすべての可能世界で成り立っていることだと定義できる。
本書では主にこの「可能世界」というものの存在論が扱われている。つまり「可能世界」というのは哲学的にどのような「ありかた」をしているのかということと、意識をもった個体としての人間と可能世界との関わりに考察が及んでいる。可能世界を抽象的なものと考えるか、物理的な実在と考えるかで、大きく分けて「現実主義」と「可能主義」という立場がありうる。筆者は後者の方が有望だと考えているようだが、公平にそれぞれの中の分派の詳細と問題点について語られる。
形而上学的でいささか難解だったが(ぼくはどちらかといえば様相論理の応用的な話を期待していた)、面白かったのは二点。ひとつは、なんでも可能ということが、逆にしばりになって「可能世界」の在り方を限定してしまう論理展開。もうひとつは、第六章で軽く触れられているだけだが、精神を各可能世界にまたがる非物質的な存在とするアイデアがユニークだと思った。
★★