野矢茂樹(文)、植田真(絵)『ここにないもの〜新哲学対論』
エプシロンとミューの2人が、散歩したり食事をしたりしながら、哲学なテーマについて語り合う。エプシロンは日頃から哲学的なことを考えているいわば哲学オタクだが、ミューは天然キャラで時折エプシロンの虚をつくようなことをポロッと口に出したりする。2人の会話にほとんど哲学の専門用語は登場しない。巻頭の川上弘美さんが本書に寄せた言葉の中にもあるけど、そういう「ぽい」言葉はわかった気にさせてそれ以上の思考の邪魔をする。
テーマは次の5つ。
- 「人生は無意味だ」って、どういう意味なのだろう
- 十年前のぼくも、ぼくなんだろうか
- ことばで言い表せないもの
- 自分の死を想像することはできるか
- 未来は存在しない?
オーソドックスで根源的な問題総ざらえという感じだが、どれも未知なものとの遭遇という中心点をめぐっていて結局そこにかえってくる。いわば未知との遭遇賛歌だ。
物語としての楽しさもちゃんと用意されていて、ラストでは軽い衝撃とカタルシスが味わえる。植田真さんのムーミンを彷彿とさせる挿絵もよかった。